第一章
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癌になっていてもいい
八条建設の現場で作業員をしている高橋良太は恋人の八条スーパーの社員須藤神楽に結婚を申し込んだ、交際して三年目彼が二十七歳彼女が二十四歳の時だ。
良太はこのプロポーズは絶対に成功すると思っていた、二人はかなり親密な関係になっておりお互い安定した収入もあり何も不安はないと考えていたからだ。
だが神楽、黒髪を肩の長さで切り揃えやや面長で楚々とした顔立ちで色白で一五六位のすらりとしたスタイルの彼女は一八〇の逞しい体格できりっとした精悍な太い眉が目立つ顔立ちで黒髪を角刈りにしている彼にこう言ったのだった。
「私結婚は出来ないわ」
「えっ、何でだよ」
「今まで隠していたけれど」
俯いた顔で答えた。
「私二十歳の時に癌になったのよ」
「癌?」
「そう、乳癌にね」
プロポーズされたレストランの自分の席で言った。
「手術は受けたけれど」
「それならいいだろ」
良太は神楽に真剣な顔で言葉を返した。
「受けて癌の部分は摘出したんだろ」
「ええ、初期段階でね」
「なら尚更いいだろ」
初期で摘出されたならというのだ。
「もう」
「よくないわよ、若くして癌になったら」
神楽はその彼に死にそうな顔でさらに言った。
「進行が速いしそれによ」
「再発?」
「そうなるから。だからね」
「俺と結婚出来ないっていうんだ」
「何時癌が再発して」
そうなってというのだ。
「死ぬかわからないのよ」
「それで俺とは」
「誰ともよ、結婚は出来ないわ」
こう言うのだった。
「悪いけれど」
「そんな、癌になっても」
「何時死んでもおかしくないのに?」
「いや、それは」
「兎に角結婚は出来ないから」
あくまでこう言ってだった。
神楽は良太からの申し出を断ってだった。
店を後にした、一人残された良太は。
神楽に断られたことだけでなく癌になったことも聞いてだった、正直思考が止まってしまった。それで仕事をする時もだ。
これまでのやる気に満ちたものとは違い何処か空虚なものになった、それはすぐに現場監督も気付き。
昼食の時にだ、彼に食事に誘われ共に牛丼を食べながら話した。
「お前最近悩みがあるな」
「それは」
「何でも言ってみろ、何があった」
初老の監督は彼に真剣な顔で問うた。
「俺に出来ることならな」
「助けてくれますか」
「俺でなくてもな」
自分に無理でもというのだ。
「俺には頼りになる知り合いも多いからな」
「それでなんだ」
「ああ、何でも言ってみろ」
「それじゃあ」
強く頼りになることを言われてだった、良太は監督に神楽のことを話した。話を終えると監督にこう言われた。
「知り合いに癌の専門家のお医者さんがいるか
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