第三章
[8]前話
満は細候の店によく通う様になった、そうしてだった。
二人は次第に絆が出来てそれが深まっていってだった。
「おお、遂に君もか」
「結婚することになったんだ」
満は魯に話した。
「これがね」
「あの細候とはね、相手が」
「意外かい?」
「意外も何もだよ」
それこそとだ、魯は満に共に昼飯を食べる中で話した。
「彼女も見ていたんだな」
「見ていた?」
「君をだよ」
魯は笑って言った。
「よくね」
「私をかい」
「君は人柄はいい」
「貧しいがね」
「貧しさなんてどうでもなるものだ」
それはというのだ。
「塾も世の中が変わってな」
「そうしてか」
「学問をしても益がある様になれば」
そうなればというのだ。
「多くの人がする、子供だってだ」
「来る様になるか」
「そうなる、そしてだ」
「私は貧しくなくなるか」
「そうなる、しかしな」
それがというのだ。
「人柄は違う、それが悪いとな」
「どうしようもないか」
「貧しさを豊かさに変えるよりもだ」
それよりもというのだ。
「人柄を変えることは難しい」
「それなら元々いい方がいいのか」
「君は穏やかで礼儀正しく思いやりがある」
そうした人物だというのだ。
「だからだ」
「彼女もそんな私を見てか」
「招いたのだ、人柄を見てのことなら」
それならとだ、魯はさらに話した。
「これ以上いいことはない、そしてだ」
「そして?」
「君も彼女がいい人だと思うな」
「見事な人だ」
「ならこれ程いいことはない、これから幸せになることだ」
「そうか、それじゃあな」
「二人がそうなることを祈らせてもらう」
笑顔で言ってだった。
魯は満に酒を奢った、その後満は細候と式を挙げ共に暮らす様になった。
妻の店の繁盛と明の太祖が亡くなり少なくとも官吏や学者が理不尽に殺されることがなくなり塾も生徒が増えた、それで満の景気もよくなり。
二人はその人柄もあり幸せに暮らせる様になった、そしてライチの枝を窓から相手の前に落とすことは求愛の行為となった。中国四川省に伝わる話である。
細候 完
2022・7・13
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