第一章
[2]次話
黒尊仏
江戸時代まで秋田県は出羽と呼ばれていた、そして江戸時代の藩主は佐竹家であった。
この時の藩主は佐竹義敦といった、色白で面長の端整な顔の持ち主であり絵に親しみ名画を多く描いていることで知られていた。
その彼が田沢湖の御座石を観に来た時だった。
昼飯を食おうとした時に仏が来た、神々しい光を背負っている姿を見て義敦も驚いた。
「御仏ですか」
「左様、実はそなたに会いに来た」
仏は静かな声で答えた。
「ここに来ていると知ってな」
「そうなのですか」
「それでブナの実を土産に持ってきたが」
「それは有り難い、しかしです」
「しかしとは何だ」
「御仏といっても色々ですが」
義敦は何とか落ち着きを取り戻しつつ仏に応えた。
「貴方様はどの御仏でしょうか」
「正仏と呼ばれている」
仏は義敦に微笑んで答えた、実に優しい笑みだった。
「お正仏様とな」
「では黒尊仏様ですか」
すぐにだ、義敦は察して述べた。
「田沢村の」
「左様」
その通りだというのだ。
「私はその黒尊仏だ」
「そうなのですか」
「そうだ、それでだが」
仏は義敦にブナの実を差し出しつつ話した。
「そなた、この地の主が来てくれたからな」
「それで、ですか」
「挨拶に来た、ではこの実を受け取ってくれ」
「わかりました」
まずだ、義敦は受け取ったが。
その後でだ、義敦は周りに問うた。
「そなた達に黒尊仏様は見えたか」
「えっ、いえ」
「ブナの実が急に出て来たのは見えます」
「それはですが」
「殿がどなたかとお話をされたことも」
「そうですが」
「そうか、ではだ」
義敦は周りにいる供の者達の言葉を聞いてだった。
家老の梅津半右衛門、藩の中で切れ者であり彼も信頼しているこの者を呼ぶことにした。そうしてだった。
実際に呼んだ、すると初老の四角い顔で白髪の中背の男が来た。義敦はその彼が来たところで確かな声で事情を話した。
そうしてだ、彼は半右衛門に問うた。
「そなたには御仏が見えるか」
「黒尊仏様がですか」
「そうだ、お正仏様がな」
半右衛門にブナの実を手に持ったまま問うた。
「見えるか」
「ここにですか」
「そうだ、どうだ」
「それは」
実は見えない、それでもだ。
彼は見栄を張ってだ、こう答えた。
「見えます」
「そうなのか」
「はい、はっきりと」
こう答えた、だが。
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