第六十二話 混乱の始まり
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貴族階級の指揮官としては稀有な存在だ。彼等に言わせると暇潰しなのだという。
“まさか前線に出る事になるとはな。伯父貴の気紛れにも困ったもんだ”
“そうだね、まあ普段から世話になりっぱなしだからこういう事でもないと恩は返せないし、いい機会だよ”
大貴族の艦隊に配属されてみて、分かった事が一つあった。指揮を執る貴族本人はともかく、そこに配属されている者達は決して能力が低い訳ではない。確かに能力が低い者も一定数は存在する。だが戦う機会がそもそもないのだ、そんな中自らの能力を鍛練したり艦隊の練度や士気をあげる事に意味を見出だす者が果たしてどれだけいるだろうか。しかも貴族の艦隊に配属されてしまうと、転属の機会も余程の事がないとほぼ無いに等しい。俺はまだ幸運だったのだ、戦う機会を与えられているのだから…。
「そうだ、卿に礼を言わねばならん。推薦して貰った新しい参謀や指揮官、優秀な者達ばかりだ。まことにありがたい」
弟のハインリヒが頭を下げた…。双子で軍人、しかも同じ艦隊、という配置は正規軍、貴族艦隊共に珍しい。特に貴族の場合はそうだ。ノルトハイム家の場合、二人とも戦死してしまうと跡取りがいなくなるのだ。子が複数人いる場合、家長は自分の息子達を一人は軍人にしても残りは手元に置くか、他の官庁に出仕させる。貴族にとって、家を継ぐ者がいなくなるのは絶望しか残されないからだ。皆軍人だったとしても最低一人はオーディンに残される。だがノルトハイム家はそうではないらしい。配属先が戦死の心配のないヒルデスハイム伯の艦隊、という事もあったのだろう。そのおかげ、あるいはそのせいというべきか、この艦隊では少々困った問題が生じていた。ヒルデスハイム伯の艦隊は本隊を伯爵が、二つの大きな分艦隊をノルトハイム兄弟がそれぞれ率いている。となるとどちら共にノルトハイム分艦隊、という事になるのだが、呼称に困っていたのだ。オットー分艦隊、ハインリヒ分艦隊、とでもすればいいと俺などは思うのだが、礼を失するに余りある、という事で、便宜上兄のオットーの方をアントン分艦隊、弟のハインリヒの方をベルタ分艦隊と呼称していた。伯は彼等をそれぞれファーストネームで呼ぶから、本人達は自分達がアントン、ベルタと呼ばれている事を最初は知らなかった様だった。だが前線で戦う様になってこれが本人達にも伝わる事になった。伯はともかく、周りの者は兄弟に強く叱責されるのではないか、と恐れおののいていたらしい。平民や下位の者が貴族指揮官に便宜的にとはいえ通称をつけるなど有り得ない事だからだ。だが二人はこの事を知ると面白がった。
“そんなに困っていたのか?実際的でいいではないか”
“そうだ。いかにも二つ名のある歴戦の艦隊の様で響きがいいよ”
と、普段からアントン、ベルタでいい、と周りにも告げ、今で
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