第二章
[8]前話
「私達がいなくてあの娘が留守番してるでしょ」
「ああ、そうなったら」
「絶対にね、彼氏がいたら」
「お家に呼ぶね」
「その時の会話を聞けば」
そうすればというのだ。
「わかるわ、どんな相手か」
「じゃあ僕達がいない時間にだね」
「録音される様にセットしておいて」
そうしてというのだ。
「あの娘にプレゼントするわ」
「騙す様で悪いかな」
「悪い相手と付き合うこと考えたらこれ位いいでしょ」
プレゼントに細工することはというのだ。
「だからね」
「これ位なんだ」
「いいでしょ」
こう言ってだ、恵子は娘に細工を仕込んだぬいぐるみをプレゼントした。そうして二人がいない休日にだ。
ぬいぐるみの中の盗聴器の録音機能をセットしておいた、ぬいぐるみは彼女の部屋にあった。そして何食わぬ顔で外出して。
その後で二人でこっそりぬいぐるみの録音をチェックすると。
「いや、真面目過ぎるわね」
「二人共ね」
恵子も久信も話した。
「文学を語り合うって」
「それぞれ読んだ本を」
「相手は文学少年みたいだね」
「それもかなりね」
「美優もその影響受けて」
「随分色々な人の色々な本読んでるわね」
「国内文学もで」
「海外文学もね」
ぬいぐるみの盗聴器から出る話はそうしたものばかりだった、美優も相手の少年の声の主もひたすら文学の話をして。
恵子が心配していることは一切なかった、そして最後は美優は玄関まで送ると言った。
部屋をチェックしてもそうした形跡は一切なかった、それで恵子は久信に言った。
「安心したわ、けれどね」
「真面目過ぎてだね」
「今時ね、交際してるから確かに垢抜けてきたけれど」
「物凄く真面目なね」
「文学談義のお付き合いなんてね」
「我が娘ながら凄いね」
「ええ、じゃあ相手の子を連れてきたら」
そして自分達に紹介すればというのだ。
「何食わぬ顔でね」
「それを受けるね」
「そうするわ」
こう話した、そしてだった。
美優が線が細い如何にも文学少年という彼氏を連れて来た時は既に知っていたことを隠して紹介を受けた。
そのうえで二人での交際を続けるのを見守った、そして彼氏が成長して文学者になり美優が小説家になったうえで結婚した時は素直に祝福したのだった。もう盗聴器はこっそり抜かれていたぬいぐるみはその時も美優のところにあった。
ぬいぐるみは知っている 完
2022・12・17
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