第八十二部第五章 撤退する者達の焦りその六
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だがティムール軍の敗因はとかく誰もわかっていなかった、それはオムダーマン軍の殆どの者もそうであり。
彼等は追撃の中でこんなことを話していた。
「俺達よく勝ったな」
「ああ、急にだったな」
「誰かがティムール軍に攻撃してな」
「それで勝ったな」
「誰が攻撃したんだ」
これがわからないというのだ。
「オムダーマン軍がしたにしてもな」
「何か急に魚雷が出てな」
「敵の後ろや横から」
「そうして何度も奇襲仕掛けてな」
「ティムール軍に一撃浴びせてくれて」
「そして勝ってきたけれどな」
「あれ何だ?」
「どうした攻撃なんだ?」
そもそもというのだ。
「訳がわからないな」
「全くだな」
「俺達の誰なんだ」
「誰が攻撃したんだ」
「少なくともこの艦隊じゃないな」
「ああ、俺達の艦隊動いてないしな」
「じゃあどの艦隊なんだ」
ティムール軍に奇襲仕掛けた艦隊はというのだ。
「それすらもわからないな」
「勝ったにしても」
「一切な」
「本当にわからないな」
「それが」
「姿が見えない軍隊か?」
兵士の一人がこんなことを言った。
「ひょっとして」
「それって昔のステルスか」
ステルス性脳を備えた戦闘機か爆撃機かというのだ、二十世紀終わりから出て来た兵器であり当時は何かと話題になった。
「姿を隠してか」
「そうして戦ったのか?」
「だとすると凄いな」
「敵のレーダーに映らないとかな」
「敵のレーダーの性能も悪くないのにな」
ティムール軍のそれもというのだ。
「俺達と同じ位の性能でな」
「そんなに性能悪くなくてな」
「俺達のことはしっかりと映るのにな」
「それでレーダーに映らないとか」
「かなり凄いな」
「全くだな」
「そんな兵器だったらな」
こうしたことを話した、そしてだった。
彼等は自分達の勝利がどうしてなのか完全にわからないでいた、だがアッディーンはその状況を聞いてもだった。
あえてだ、こう言った。
「今はそれでいい」
「兵達もですね」
「ことの真実がわからないでいることは」
「それでいいのですね」
「そうだ、敵を欺くには味方からというが」
アッディーンはこの言葉も出した。
「今がまさにそうだな」
「あえてですね」
「兵士には真実を言わない」
「今の時点では」
「そうした状況ですか」
「そうだ、言わずにだ」
そうしてというのだ。
「後で知ってもらう」
「戦いが終わってですね」
「ことが落ち着いてからですね」
「それからですね」
「彼等は全てを知ればいいですね」
「その時に」
「それまではあれこれ言ってもいい、的を得たことを言う者がいても」
それでもというのだ。
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