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冥王来訪
第二部 1978年
狙われた天才科学者
先憂後楽  その2
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す。
我が国は常に歴史を通じて東方の蛮族からの襲撃を受けてきました。
チェコやスロバキア、ハンガリーも同様です。
ハンガリー人の姓名の表記の順が、東洋人と同じなのをご存じですよね」
「ああ、東亜人の様に姓から名乗って、名を後に書く習慣を持つのは俺も知っている。
今のハンガリー人の祖先が、マジャール人といって東亜を起源にする騎馬民族だからであろう」
「流石ですな。我がポーランドも少なからず蒙古の(くびき)の影響は受けています。
歴代ポーランド王の肖像画をご覧になれば、蒙古風の装束を着ているのが判るでしょう」
「ホープ」の箱を取り出すや、タバコを口に咥え、
「御託は良い。しかし、世の中、判らぬ事ばかりだ」と、紫煙を燻らせながら、
「ソ連赤軍参謀総長を口説いて、T72戦車を100両買ったシュトラハヴィッツが、今や反ソの旗頭か。
ハハハハハ」と、満座の中で、一人笑って見せた。

 帰りのパンアメリカン航空のチャーター機内で、マサキはタバコを弄びながら、
「俺は、血濡らさずして、東欧の反ソ同盟を作り上げることが出来た。
後は、ソ連の彼奴等(きゃつら)が二度と俺に矛を向けぬほど、縮み上がらせねばなるまい」
満面に笑みをたぎらせながら、美久に言いやった。
「つかぬ事を聞きますが」と顔色を曇らせながら、
「どうした」
「最近、思うにアイリスディーナという小娘に心を踊らされ過ぎです。
稀代の美女に心奪われるのは、人情として、この私にもわかります。
でも、その色香に惑わされれば、やがては身を滅ぼしかねないかと」
「フフフ、お前らしからぬな。人形の癖に嫉妬するとは」
と、告げるとタバコに火を点け、彼女の顔を見た。
「このままいけば、貴方はアイリスという娘の、愛の奴隷になります。
どうか、あぶない火遊びと、諦めた方が宜しいかと」
「確かにお前の言わんとすることも分かる。
唐の玄宗は、傾国(けいこく)傾城(けいせい)と名高い楊貴妃の愛に溺れ、国都長安まで焼いた。
クレオパトラは、ローマの覇者シーザーとの間に子を成し、老将軍を我が物の様に弄んだ。
女性(にょしょう)の色香は、時の権力者を自在に動かしたのは事実」
悠々と紫煙を燻らせながら、
「俺もその事は、重々承知している。
だが、あの娘は人間の抜け殻みたいな俺に何かを与えた。
あの手の温もりは、夢まぼろしではなかった……」
そう告げると、マサキは、静かに機窓から沈む夕日を眺めていた。
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