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冥王来訪
第二部 1978年
狙われた天才科学者
先憂後楽  その2
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 そして一番のネックになったのは、ユルゲンが議長と親子盃を交わした事実。
秘密結社を起源に持つ共産党組織において、杯を交わして親密な間柄になる事は重要な行事。
既に個人主義が一般化した現代では、無意味と、鎧衣の方としては、冷ややかな視線を向けた。
だが、武家社会という伝統の中で暮らす、外事情報専門家は違った。

甚だしく不快な顔をした男達は、青い顔をする鎧衣を責め立てる様に、一斉に口を開く。
「ベルリンに派遣した監視工作員はおろか、珠瀬や綾峰まで東独に弄ばれるとはッ」
「しかも城内省から派遣された(たかむら)の若様まで巻き込んでいる。
先の北米のブリッジス嬢との件は、もみ消しに苦労したよ。その比ではない」
「こんなことで木原の事件が公になったらどうする。
奴には、莫大な金額を税金から支出しているんだ。野党に突き上げられたら一大事だぞ!」

黙然(もくぜん)と首を垂れていた鎧衣は、
「申し訳ございません、私の不徳の致すところです。
しかし木原マサキを、再び国益に利するまでは私に責任を取らせて下さい。
その後は、どの様な処分でも」
内閣官房調査室長は、じろりと鎧衣をねめつけ、
「当たり前だ。ここで君を辞めさせるわけにはいかんよ」
情報省外事情報部長も、異口同音に、木原マサキの危険性を訴え、今後の対応を激越な口調で論じた。
「我々も彼を甘く見てすぎていたようだがね」
なお附け加えて、
「これで、木原という、単独でゼオライマーを作り上げた男の価値が、まずは保証されたことになる」
「はい」
調査室長が右手をかざすと、後ろから秘書官が現れて、
「君はこれからある人物の指揮を執ってもらうことになる」
「はっ!」
秘書官からB4判の書類を受け取るや、
「ラオスでCIAとともに現地の反共工作を担当した人物だ。しかも中野学校卒で君より若い」
その書類を、鎧衣に放り投げ、
「彼の名は、白銀(しろがね)影行(かげゆき)
中の写真を眺める鎧衣を見ながら、
「陸軍に拾われ、中野学校に入る前、青山のメソジスト系私立専門学校に4年間いた。
専門卒だが、理工学の知識はそこで学んだから木原の補佐ぐらいは出来よう」
「たしか合同メソジスト教会といえば、米国で影響を持つキリスト教の一派ではありませんか。
米国派遣を見越して、その様な人材を用意していたとは。
いやはや、この鎧衣、皆様のご慧眼(けいがん)には感服いたしました」
と、鎧衣は眼をかがやかして、調査室長の面を見まもった。
「実は斑鳩(いかるが)の翁が、全国に居る情報工作員の中から選び、準備して置いたのだよ。
素封家(そほうか)の次男坊なので、育ちも良く、行儀作法は、その辺の百姓より出来る男よ」
鎧衣は、笑いを含んで、調査室長に、
「翁直々に推挙された人
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