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展覧会の絵
第十三話 ベアトリーチェ=チェンチその十三
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「整っていると人はそれだけで褒めてくれるからね」
「そして信頼してくれるわね」
「顔がいいとね。あらゆるものを隠してくれるんだよ」
「どんな悪いことでもね」
「そう。確かに僕はね」
「悪人ね。それもかなり」
「そうだよ。悪いことこそね」
 どうかというのだ。そうした行動こそが。
「最高の快楽なんだよ」
「その通りよ。じゃあね」
「今日だね」
「仕掛けるわ。まずはね」
「彼の家に行くんだね」
「住所はわかってるから。それに」
 さらにだというのだ。やはりそれだけではなかった。
「もう一人の空手部のところにも行ってね」
「そうして仕掛けるね」
「もう一人も捕まえてね」
 そしてだというのだ。
「思いきり楽しいことをしてあげるわ」
「演出には凝るんだね」
「凝ってこそ面白いんじゃない」
「そういうことだね。それじゃあね」
「ええ、仕掛けるわ」
 こう言ってだ。そのうえでだった。
 雪子は席を立った。丁度朝食も食べ終わったのである。
 一郎はその妹を目だけで見送った。それからこう言うのだった。
「では僕もね」
「学校に行くのね」
「ただ。彼女に今はね」
「何もしないの?」
「見ておくだけだよ」
 ただそうするだけだというのだ。こう言ってだ。彼はこの日は何もしなかった。
 だがそんな彼を見てだ。十字は学校の屋上の携帯でだ。教会にいる神父に話すのだった。
「若しかしたらね」
「何かありますか」
「うん。彼等は動いているのかもね。あの先生の妹もいないし」
「妹の方もですか」
「学校に来ていないよ。何かをしているね」
「危険ですね。大変なことにならなければいいのですが」
「残念なことに僕は動けない」
 難しい顔でだ。彼は言った。
「今日はね」
「そうですね。今日もでしたね」
「藤会の残党の裁きの代行をしなければならないからね」
「そろそろ終わりますね」
「そう。そろそろだけれど」
 だが今はだというのだ。どうしてもだった。
「けれど。その間に」
「今日はどうしようもないですか」
「今日若し何かがあったら」
 十字はその時のことを危惧していた。それもかなり強く。
「取り返しのつかないことになりかねない」
「ですが今は」
「抜かりがあったかも知れない」
 自分で反省もするのだった。彼とて人間であり全てが完璧ではないのだ。
「そして僕は一人しかいない」
「心も身体も一つですね」
「だからね。どうしてもね」
「動けることには限りがありますね」
「このことを残念に思うよ。けれどね」
 だが、だ。それでもだとだ。十字はこうも言うのだった。

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