第二百六十九話 混沌と悪意の神その十
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「あっちの老舗の蕎麦屋行ったんだよ」
「量が少なかったか」
「こっちと比べるとな」
「事実そうだったか」
「ああ、だから腹一杯食おうと思えば」
蕎麦をというのだ。
「おかわりしないとな、それも何杯もな」
「そうした風になっているか」
「しかもな」
久志はさらに話した。
「おつゆがな」
「こちらと違うな」
「ああ、大根おろしの汁にあっちの醤油を入れたやつだよ」
「老舗だとそれか」
「昔ながらのな」
東京のというのだ。
「それでだよ」
「大根おろしの汁に関東の醤油だとな」
「辛いのわかるだろ」
「俺はあちらに行った時鴨なんばうどんを食ったがな」
「つゆ真っ黒だったな」
「噂通りな」
「それで辛かったな、そしてな」
久志は英雄のその話に頷きつつさらに話した。
「そっちのつゆも辛くてな」
「だからか」
「それでだよ」
「あちらじゃつゆは少しつけてだったな」
「噛まずに喉越し味わう為に飲むけれどな」
「つゆの辛さのせいだな」
「あとおやつだからすぐに食うしな」
そうしたものでというのだ。
「しかも職人の街だったしな」
「すぐに食って仕事に戻る」
「そうだったからな」
「蕎麦はそうしたものだった」
「ああ、正直合わなかったぜ」
英雄はどうにもといった顔で述べた、事実その時のことを思い出しながらどうかという顔になっている。
「あっちの蕎麦はな」
「美味くてもだな」
「食ってこうしたものかと思った位だったぜ」
「話に聞いていた通りのか」
「ああ、それで次に行った時はな」
「食わないな」
「もうな」
そうするというのだ。
「本当にな」
「そんなものか」
「俺にとっちゃな、やっぱり蕎麦そしてうどんはな」
「こちらか」
「関西だよ」
こちらだというのだ。
「本当にな」
「成程な、まあそれはな」
「お前も同じだな」
「そのうどんは完食したが」
東京で食べた鴨なんばはというのだ、尚葱をなんばと呼ぶのは関西でのことだ。大阪の難波がかつては葱畑であったことに由来する呼び名である。
「美味かったが辛くてだ」
「口に合わなかったな」
「そう思った、つゆの黒さもな」
「噂通りだったな」
「墨汁を入れた様な」
そこまでのというのだ。
「黒さだと思った」
「そうだよな、俺はそっちは食ってないんでな」
「実際には言えないか」
「ただつゆは見たからな」
そちらはというのだ。
「だからな」
「そう思ったか」
「ああ、食おうとはな」
その様にはというのだ。
「思わなかった」
「そうだろうな」
「うどんは関西だよ」
久志は笑って言い切った。
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