暁 〜小説投稿サイト〜
魔法絶唱シンフォギア・ウィザード 〜歌と魔法が起こす奇跡〜
GX編
第136話:喉元過ぎれば熱さを忘れる
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「でもその逃げ続ける苦しさに、アンタの心は耐えきれるのか? 手を伸ばせば届くかもしれない物を、見てみぬフリをし続ける事が出来るのかい?」
「それは……その……」

 先の分からない未来の事等断言できるものではない。だが男は、そんな洸の未来を見たかのようにハッキリと断言した。

「そう言う人間ってのはな、いつか必ず精神に限界が来て、道を踏み外すもんだ。そうなったらその先に待ってるのは地獄だぜ? 家族どころか、世間からも爪弾きにされる。そんな人生を歩んでいきたいか?」
「じゃあ、どうすればいいんだよ……」
「答えはずっと目の前にあるだろ?」

 即ち、娘を始めとした家族に頭を下げ、再び家族に戻りたいという意思を示す事。それが最も、洸を含め誰も傷付けず傷付かない方法であった。

「それでもし、家族皆から拒絶されたら?」
「そこからはリトライの連続さ。やらかしたのはアンタなんだろ? なら、例えしつこくても繰り返し謝り続けて、気持ちを伝えるしかないって」

 それはそれで辛いだろう。だが喉元過ぎれば熱さを忘れるともいうし、拒絶されて一番苦しいのは最初だけ。落ち着いた頃に再び気持ちを伝える事を繰り返せば、離れていた家族の心も戻ってくるかもしれない。

 勿論そこには戻ってこない可能性も常に付き纏ったが、それを敢えて口にする男ではなかった。

「何より娘さんは、アンタとまた会ってくれるんだろ?」
「あぁ……」
「それはつまり、娘さんの方もアンタと、アンタを含んだ家族に戻りたいと思ってるって事だ。希望はそこにある。後はその希望を放さないよう、アンタが努力するだけさ」

 男はそう言うと、帽子から万札を1枚取り出して洸の手の中に滑り込ませた。

「まずは、親父としての振る舞いを見せないとな。これで娘さんに美味いもんでも食わしてやりな」

 そうして男は立ち上がると、洸に背を向けて歩き去っていく。突然万札を渡され、洸は思わず立ち上がり男の背に手を伸ばした。

「いや、ちょ、これ……!?」
「んじゃ、”響ちゃん”によろしくな〜」

 瞬きした次の瞬間には、男の姿は人混みの中に紛れて分からなくなってしまった。取り残された洸は、手の中の万札を見るとそれを取り合えず財布の中に入れファミレスへと歩き出した。気付けば約束の時間までもう直ぐだ。

 その途中、洸はある事に気付いた。

「あれ? そう言えばあの人、何で響の名前を? 言った覚えないのに……?」

 まさか本当に魔法使いだったのか? そんな事を一瞬考えた洸だが、そんな馬鹿なと頭を振って男の事を振り払うと響と家族の事を考えつつファミレスへと入っていった。




 一方、洸と別れた男……颯人は、帽子を目深に被り直しながら洸の健闘を祈った。


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