暁 〜小説投稿サイト〜
魔法絶唱シンフォギア・ウィザード 〜歌と魔法が起こす奇跡〜
GX編
第136話:喉元過ぎれば熱さを忘れる
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 その日、立花 洸は1人浮かない顔で街を歩いていた。向かう先にあるのは、先日も響と話し合ったファミレス。今日この日、彼は再びあそこで響と会う約束をしていた。

 歩く先に遠くファミレスの看板が見えたのを見て、洸は足と気が重くなるのを感じた。先日響と別れた直後に、ある男に掛けられた言葉がここのところずっと心にへばり付いて離れないからだ。

『お前は、今の情けない自分の姿を娘に見せながら育てたいのか? 娘にお前の様な情けない人間に育って欲しいのか?』

『もし自分の様に育ってほしくないと思うのであれば……最早父と名乗る事はしない事だ』

 ナイフの様に鋭い男の言葉は、洸の忘れかけていたプライドを刺激するには十分な威力を持っていた。だがそのプライドを自覚して尚、洸の中には恐怖と迷いが燻っていた。

 もう一度一つの家族に戻りたいが、妻に拒絶されたらどうしよう?

 もしそうなったとしても、響さえ娘で居てくれるのであれば……

 そんな考えが離れず、だがそれはあの男の言う通り情けない男の姿に他ならない。そんな姿を響に見せて、娘ですら無くなられてしまったらどうすればいいのか。

「はぁ〜……」

 思わず大きな溜め息を口にしてしまったが、冴えない男の溜め息などを気にするものなど居る筈も――――

「お悩みかな?」
「え?」

 不意に掛けられた声に洸がそちらを見ると、そこには1人の青年らしき男の姿があった。チロリアンハットを目深に被り、カジュアルなスーツ姿の何処か飄々とした雰囲気の男である。

 男は帽子の鍔を人差し指で押し上げると、鍔の下に隠れていた目で晃の事を見た。まるでこちらの全てを見透かしたような男の視線に、洸は思わず顔を背ける。

「ふむふむ、なるほどね……」
「な、何だよ? ってか、アンタ誰だ?」

 明確に拒絶を態度で示したのに、男は構わず近付き洸を観察し1人頷く。居心地が悪くなった洸が思わず問い掛けると、男は人を食ったような笑みを浮かべて口を開いた。

「おじさん、悩みを抱えてるね。それも家族絡みの悩みだ」
「な、えッ!?」
「悩みの相手は、ふ〜む……奥さんの様にも見えるけど、直接的にはお子さんかな? ズバリ、娘とみたね」

 初対面である筈の男に、悩みがある事どころか家族、それも娘が居る事すら言い当てられた。得体の知れない男に、洸は思わず数歩後退る。

「何なんだよお前ッ!? 何で、俺の事を……」
「俺が誰かって? フッ……魔法使いさ」

 慄く洸に対し、男はそう答えると左手を握り右手でフィンガースナップを鳴らした。パチンという軽い音が響いた直後、男が握った左拳を開くとその上には一本の缶コーヒーが乗っていた。

 魔法と見紛う程の鮮やかな手品に、洸は目を瞬かせた。

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