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展覧会の絵
第十三話 ベアトリーチェ=チェンチその五
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そう。そしてね」
「そして?」
「両者は互いにせめぎ合っているよ」
 天使と悪魔の戦いはだ。人の心の中でこそ行われているというのだ。
「そしてそれにより人の心は形成されていくんだ」
「そうなるんだね」
「そう。ただ」
 ここでだ。十字はその言葉を一旦置いた。それからまた述べたのだった。
「善のみになった人もいればね」
「完全に悪になった奴もいるんだ」
「完全な悪。邪悪」
 完全な悪をだ。十字はこう表現した。
「それは絶対に許してはならない」
「うん、じゃあそういう奴が」
「彼女の父だったんだね」
 また絵の話に戻った。ベアトリーチェ=チェンチの。
「この絵には邪悪は存在していないけれど邪悪は描かれているよ」
「描かれていないけれど存在しているんじゃなくて?」
「絵にいるのは彼女だけだよ」
 存在しているのはだというのだ。
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