第十三話 ベアトリーチェ=チェンチその三
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「全くね」
「そうだよね。彼はそれなのかな」
「どうだろうね。けれどね」
「けれど?」
「かなり重度の病気なのは確かだね」
それはだ。確かだというのだ。
「それはね」
「ううん、重いんだ」
「そう。そしてね」
ここでだ。十字は和典の気付かないことを言った。
「ぬかったよ、僕も」
「えっ、佐藤君も?」
「うん。相手は僕は思っているよりも遥かに酷い奴だった」
こう言ったのである。その感情のない声で。
「考えていたより遥かにね」
「?佐藤君が?」
「そう。若しかしたら彼等についても手遅れなのか」
危惧がだ。そこにはあった。
「今何とかしたいけれど手のうちが見えないね」
「手のうちがって」
「今日どうするか」
こう言ったのだった。
「あの熟に行こうか」
「塾?確か君清原塾に通ってたよね」
「そうだよ」
「清原塾に行くのかな」
「どうしようか」
言葉に感情はないがそれでもだ。十字は静かに言った。
「今日は」
「清原塾の日だったんだ」
「うん。いや」
「いや?」
「まだあの階には行けないか。行きたいけれど」
十字は一人で話していく。その彼の話を聞いてだ。
和典は首を捻った。そうしてそのうえで言うのだった。
「?何が何なのかわからないけれど」
「あっ、何でもないよ」
ここでだ。十字も気付いた。自分が独り言を言っていることを。
それでだ。この場ではそれを取り繕ったのだった。
「僕のことだから」
「君のことなんだ」
「そう。何でもないからね」
「だといいけれどね。まあとにかくね」
「彼のことだね」
「本当にね。早く学校に来て欲しいね」
「僕もそう思うよ」
これはそのまま思っていた。十字にしても。彼は確かに言葉にも表情にも感情は出さない。まさに仮面の如くだ。だがそれでもだ。そこには心はあるのだ。
だからだ。彼も今こう言うのだった。
「是非共ね」
「そうだよね。とにかくね」
「心配だね」
また言う十字だった。
「彼のことは」
「幼馴染みの娘も心配で毎日家に行ってるらしいけれど」
「幼馴染み」
そう聞いてだ。十字はその手をぴたりと止めた。
そしてだ。こう和典に尋ねた。
「ひょっとして本木さんかな」
「あっ、知ってるんだ」
「名前はね。料理部の娘だよね」
「そうそう、凄く奇麗なんだよね」
「おそらくはあの娘が」
原因だろうとだ。十字は言葉の外で言った。だがこれは彼だけがわかることであり聞いているだけの和典にはわからないことだった。十字にしてもあえて言わなかった。
そしてだ。ここではこう言ったのだった。
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ