第三章
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「好か」
「今度の真ん中の文字はそれか」
「それで次は『き』か」
「何だこれ」
「おい、今度は『だ』って出たぞ」
「お六好きだ」
「これは告白じゃねえか」
花火を観た誰もがわかった、そして。
花火を観ていた面々の中にお六もいた、お六はそれを見て言った。
「あの馬鹿何てことするんだい」
「おいそのお六ってのは」
「あんただよね」
「今日の花火は太吉も造ってるし」
「それじゃあ今今打ち上げた花火は太吉か」
「あいつが造ったのか」
「間違いないよ、好きなのはわかっているから」
お六はその花火の言葉にこう言った。
「口で言えばいいのに」
「それが言えなかったからだろ」
「太吉さんあれで昔から口下手だし」
「肝心なところで言葉が出ないから」
「そんな奴だからな」
「それでもこんなやり方ってないよ」
お六は苦い顔でこうも言った。
「本当に、けれど」
「けれど?」
「けれどっていうと」
「わかったよ、こんな告白したら受けない訳にいかないよ」
顔を上げてだ、お六は笑って言った。
「最高の告白だからね」
「粋だねえ」
「花火に自分の気持ち入れて打ち上げて言うなんて」
「それで夜空に書くなんて」
「太吉もやったな」
「天下一の告白だよ」
お六の周りも言った、そしてだった。
お六は太吉と付き合う様になり二人はすぐに祝言をあげた、そうして一緒に住む様になったがその彼にだ。
江戸中から花火に字を入れて好きな相手に言いたいと言う者がやって来た、だが彼はそんな者達に言った。
「あれは俺も一世一代のことだったからな」
「もう二度と出来ない」
「そうだってのか」
「ああ、もうこれしかないって思ってな」
それでというのだ。
「ああしたからな」
「だから二度は出来ない」
「そうか」
「そうだよ、俺も自分の全てを賭けてな」
そうしてというのだ。
「やったからな」
「だからか」
「二度は出来ない」
「それで誰に言われてもか」
「しないんだな」
「そうさ、悪いが普通の花火で我慢してくれ」
真ん中に字のないというのだ。
「そっちもとびきりの花火だからな」
「そこまで言うなら仕方ねえ」
「じゃあまた最高の花火造ってくれよ」
「そうしてくれよ」
「ああ、任せな」
そうした者達には笑顔でこう言って帰らせた、そうしてだった。
彼は子供達が出来て孫達に囲まれながらも花火を造った、文化文政から幕末になり維新になってもそうした、江戸の街の夜が今よりも紫の色が深かった頃の話である。
花火の中の文字 完
2022・8・18
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