第一章
[2]次話
花火の中の文字
江戸で若いながら腕がいいことで知られている花火職人の太吉は職場の近くの蕎麦屋で昼飯を食いつつ仲間達に言ってきた、面長で大きなはっきりとして目で口元は威勢のいい感じだ、やや小柄で引き締まった身体をしている。全体的に江戸っ子の粋がある。
彼はざるそばをつゆに少し漬けてから噛まずに喉越しを味わって食いつつだ、こう言うのだった。
「お六にな」
「何だおめえまだ言ってねえのかよ」
「好きだって」
「夫婦になってくれってか」
「言おうと思ってもな」
それでもというのだ。
「これがだよ」
「いざって時に怯んでか」
「それでもか」
「仕事と喧嘩はぱっと手が出てもな」
太吉は仲間達に話した。
「それでもなんだよ」
「ったく、おめえは変なところで根性ねえな」
「そんなことも度胸だろ」
「好きだって一言で終わりだろ」
「怖がることないだろ」
「それがそうはいかねえんだよ」
またこう言うのだった。
「俺はな、けれどな」
「やっぱり夫婦になりたいよな」
「お六ちゃんいい娘だしな」
「だったらな」
「ああ、何とか俺の気持ちを伝えてな」
そうしてというのだ。
「そのうえでな」
「じゃあ早く言えよ」
「もう言うしかないだろ」
「おめえの性分で恋文とかないだろ」
「歌に詠うとかな」
「恋文とか和歌とか都のお公家さんじゃねえんだ」
太吉もそれは否定した。
「俺の柄じゃねえ」
「そうだよな」
「長屋暮らしの職人が和歌なんてねえな」
「学とは無縁だからな」
「俺達全員はそうだが」
「寺子屋で読み書き習った位でそんな学のある振り出来るか」
笑ってこう言うのだった。
「飾らねえもんだ、人はな」
「そうだよな」
「それが江戸っ子ってやつだ」
「それでだな」
「おめえもそうするな」
「ああ、しかし言いたいことはな」
お六にその気持ちを伝えることはというのだ。
「やっぱりな」
「伝えないとな」
「このままじゃ駄目だろ」
「やっぱり言わないと何もないからな」
「こうしたこともな」
「だから言うさ」
太吉は強い決意を以て言い切った。
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