第二章
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「三河からの方々とは違いまする」
「ならわかるな」
「田沼殿は天下の宰相です」
それに相応しい人物だというのだ。
「まことに」
「そうであるな、して幕府の仕組みはどうじゃ」
家治は今度はそちらの話をした。
「治めるそれは」
「見事なものです」
幕臣は家治の問いに答えた。
「これ以上はないまでに」
「実によく整っておるな」
「鎌倉や室町の頃よりも遥かに」
「しかもそれぞれの役職の者達もよい者達ばかりじゃ」
資質に優れた者が多いというのだ。
「なら余はよいというだけでじゃ」
「大丈夫だというのですか」
「若し余が動くべきなら動き」
その時はというのだ。
「しかしそうでないなら天下の公方が迂闊に動けばな」
そうしたことを行えばというのだ。
「かえって政は乱れる、だからな」
「上様はですか」
「動かぬ、印を押してな」
将軍が裁決すべきことに対してというのだ。
「それでじゃ」
「よいですか」
「うむ」
こう言うのだった。
「だからこれからもな」
「田沼殿に仕組み、それに我等にですか」
「任せる」
こう言ってだった。
家治は囲碁を続けた、その話を聞いてだった。
田沼と交流のある江戸の街で最近学者としてだけでなくあれこれと話題になっている浪人平賀源内細面で粋な服装と髷の彼が煙管を吸いながら話した。
「上様はわかってるじゃねえか」
「わかってる?」
「わかってるっていいますと」
「あれよ、田沼様がどんな人かおわかりでな」
田沼の資質をというのだ。
「幕府の仕組みも田沼様以外の幕府のお人達もな」
「全てですか」
「おわかりなのですか」
「それで全部任せられてるんだからな」
それ故にというのだ。
「もうこれはな」
「おわかりだとですか」
「言われますか」
「そうしたのなら大丈夫だってな」
全て任せてもというのだ。
「おわかりだからん、大したものだよ」
「色々言われていますが」
「囲碁ばかりされていると」
「しかしそれはですか」
「実はですか」
「任せていい、逆に自分が下手に動くとよくないってな」
将軍である自分がというのだ。
「おわかりなんだよ、大した上様だぜ」
「その人や仕組みをはっきりわかっている」
「それで信頼している」
「しかも一番上のご自身が迂闊に動くとどうなるか」
「全ておわかりなので」
「これは大した方だぜ、幕府は安泰だな」
煙管を吸いながら笑って話した、そして実際にだった。
今田沼意次が老中であった時代は多くの歴史家達に江戸時代の中でも特筆すべき時代の一つであったと見られている。それをもたらしたのは家治が全てわかって彼と他の者達に政を任せたからだとだ。囲碁三昧と言われた将軍は実は中々の出来物であった様
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