第三章
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「どうにもなりませぬ」
「逃れ何時敵が来るやもわからぬ」
「しかも周りはこうです」
「深い木々に覆われな」
「獣もいます」
その危険もあるというのだ。
「賊軍に与する山賊も出るやも知れませぬし」
「朕も安全でないな」
「食うものや水の心配もありますし」
「皆不安で仕方ないな」
「ですから」
そうした状況だからだというのだ。
「こうもなります」
「全てはあの者を見抜けず乱を起こさせた朕の罪だな」
玄宗はこのことを感じた、それも極めて強く。
「まさに」
「それは」
「よい、わかっておる」
高力士に辛い顔で述べた。
「最早な」
「そうでありますか」
「兵達を咎めぬ」
今回のことでというのだ。
「ただ落ち着く様にな」
「言われますか」
「今は仕方がない」
こう言うしかなかった、そして楊貴妃の亡骸のところに行くとだった。
貴妃は目を閉じて横たわっていた、触るとまだ温かくかつ柔らかかった、玄宗はその彼女の亡骸を見て項垂れたが。
高力士がここで言ってきた。
「ライチが届きました」
「そうか」
「はい、籠に入っていますが」
「集めた者には褒美を取らせよ」
玄宗は高力士に項垂れたまま答えた。
「今はこうした状況故然程大したものは与えられぬが」
「それでもですか」
「何かな、そして都に戻った時にな」
「あらためてですか」
「与える、だが遅かった」
玄宗はここでだった。
高力士が差し出したライチが並々と入った籠を見た、その籠を見ても言った。
「少しばかりな、もう食べられぬ」
「貴妃様は」
「朕もな。何も話さず集めた者達に食べさせよ」
「褒美としてですか」
「違う、朕からの礼だ」
玄宗は項垂れたまま答えた。
「褒美は別にやる」
「そうされますか」
「そして貴妃だが」
今は目を閉じ何も言わぬ様になった彼女も見て話した。
「丁重にな」
「弔いますか」
「そうしてくれ、そして朕の罪は全て書け」
こうも言った。
「この愚かさをな、朕のそれがこの事態を招いたからな」
「そうしてよいのですね」
「そうして後世まで伝えよ」
玄宗は泣いた、その涙は楊貴妃の亡骸に落ちた。一滴一滴と落ち貴妃を濡らしていった。
ライチは籠ごと集めた者達に渡された、高力士は彼等に玄宗が是非に食べて欲しい自分も貴妃も食べて満足したと言っているからとも玄宗のこの言葉も伝えた。
だが集めた者達も真実は知っていた、しかし。
玄宗の気持ちを知っていたので食べた、そのうえで彼等は食べつつ話した。
「悲しい味だな」
「ああ、甘くないな」
「甘い筈のライチだっていうのに」
「涙の味がする」
「万歳老の涙の味がする」
そのライチを食べつつ話した、籠は忽ちのうちに空に
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