第七十六話 狭いが多彩な街その六
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「だらしないところもあるし苦手なことも多いし悪いこともしてきたし」
「だからなの」
「全然立派じゃないわよ」
「けれど立派な人は自分から言わないって」
「言ったけれどね」
「お姉ちゃんは違うの」
「そうよ、立派じゃないから」
だからだというのだった。
「私よりもずっと立派な人を見てね」
「ひょっとしてお姉ちゃんって立派に思われるのとか嫌い?」
「苦手よ」
その通りだとだ、愛は答えた。
「尊敬されるとか荷が重いわよ」
「そうかしら」
「そうよ、それで若し失望や幻滅なんてさせると」
それこそというのだ。
「駄目だしね」
「だから尊敬されたくないの」
「そうよ、期待に応えることもね」
このこともというのだ。
「荷が重いのよ」
「そこで期待を裏切って」
「失望や幻滅させたら」
それこそというのだ。
「辛いから」
「尊敬されることは苦手なのね」
「ええ、そんなこともわからないで自分を尊敬しろとか言ったら」
愛はどうかという顔で話した。
「幻滅とか失望させた時どうかって」
「考えてないのね」
「だからね」
「そんなこと言うのね」
「本当に尊敬されるのって重いのよ」
実際にというのだ。
「それで自分を見るとね」
「立派じゃないのね」
「客観的に見るとね」
「そうかしら」
「私が見るとね、だからよ」
それでというのだ。
「尊敬しないでね」
「ううん、そうなのね」
「偉人の人なんか尊敬したら」
そうすればというのだ。
「いいわよ」
「偉人ね」
「歴史上のね」
「私が恩恵する偉人っていうと」
咲は少し考えてから愛に答えた。
「三島由紀夫かしら」
「あの文豪の」
「物凄い自殺の仕方をしたけれど」
市ヶ谷で自衛隊の決起を促した後で割腹自殺を遂げた、その自殺は昭和を象徴する事件の一つだと言われている。
「凄い作品一杯書いてるのに」
「あの人気さくでいい人だったらしいわね」
「全く偉そうじゃなかったらしいわね」
「みたいね、どうもね」
「どうも?」
「あの人は三島由紀夫っていう理想像があって」
「ペンネームだからね」
咲もそれは知っていた、実は三島由紀夫というのはペンネームであり本名は平岡公威といったのである。
「あのお名前は」
「そう、その人を理想として」
そうしてというのだ。
「三島由紀夫になりきっていたかもね」
「何か難しいわね」
「演技をしていたのかもね」
「ええと、平岡公威って人が」
咲も彼の本名は知っていた。
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