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レーヴァティン
第二百六十七話 西に帰りその三

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「そして強くもなる」
「無限にな」
「そうなる、人間は弱いが」
 こうも言うのだった。
「しかしな」
「そうした存在でもあるな」
「そしてだ」
 英雄はさらに言った。
「神と人を入れ替えて言うが」
「ああ、それでどう言うんだ?」
「人は一匹の蚊に敗れる時もある」
「ああ、それな」
 その通りだとだ、久志も聞いて頷いた。
「確かにな」
「あるな」
「マラリヤになったらな」
 一匹の蚊に刺されてというのだ。
「もうそれでな」
「死ぬこともあるな」
「アレクサンドロス大王がそうだろ」
 人類史上屈指の英雄と言われる彼がというのだ。
「物凄い軍事的才能を誇ってな」
「頭の回転もよくな」
「武芸も凄かったが」
「まさに英雄だったな」
「神の化身と言っていい位にな」
 事実彼はギリシア神話の英雄アキレウスの生まれ変わりだと確信していた、だから戦場で死ぬことはないと言っていたのだ。
「そうだったけれどな」
「その彼でもな」
「一匹の蚊に倒されたからな」
「マラリヤになってだ」
 まさにその病気にだったのだ。
「死んだ」
「そうなったな」
「有名な話だな」
「ああ、本当にな」
「この通りだ」
 英雄はまさにと語った。
「如何に偉大な人間でもな」
「一匹の蚊に負ける位にな」
「弱く小さいものだ」 
 そうであるというのだ。
「まことにな」
「それじゃあ神様と比べるとな」
「実に小さい」
「そうだよな」
「塵芥と言ってもな」
 その様なものと、というのだ。
「言ってもだ」
「いいな」
「そうだ、このことは頭に入れるいや」
 英雄は自分の言葉を自分で訂正して述べた。
「常に念頭に置くべきことの一つだ」
「そうだよな」
「八条学園では有名な話だが」
 こう前置きしてあらためて話した。
「学園の経営者の人達が信者の教会の別の信者さんだが」
「あそこ信者さん多い教会だろ」
「お前も聞いているな、長男だからと甘やかされてな」
「ああ、あの人か」
 久志は長男と聞いてわかった。
「大阪の方にいた」
「そうだ、働かず奥さんに偉そうなことばかり言ってな」
「ご飯も甘い辛いって文句ばかりでな」
「何をしても感謝なぞせずな」 
 そうしてというのだ。
「遂に奥さんに逃げられてだ」
「これまで家事してもらって食べさせてくれたのにな」
「感謝なぞせずな」
 そのうえでというのだ。
「爪切りまで持って行っただ」
「そんな小さなものまでこだわるなんてな」
「実に器が小さい」
「感謝もしないでな」
 爪切りまで世話になっていてというのだ。
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