最終章 みんなが幸せでありますように
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赤い魔道着を着た赤毛の少女が、非詠唱による飛翔魔法で地面すれすれを滑るように飛んでいる。
まるでここは月面かといった、なんにもない時折大小の石が転がっている程度の地面の上を。
赤毛の少女、魔法使いアサキである。
一キロメートルほどの前方にも人の姿、少女の形状を取ったエネルギー体がやはり空を疾っている。
シュヴァルツだ。
それを、アサキは追っているのである。
シュヴァルツにかつての面影はシルエットのみ、というよりも存在自体がシルエットでしかない。ゆらゆらと揺らめく橙色の炎が、少女の形を作っているのだ。
だが……シュヴァルツは、アサキに倒されて死んだはずだ。
肉体を捨て、新たな生命体としての進化を遂げたということなのか、それとも魂や残留思念といった類であるのか。
分かっているのは、ただ目の前のことのみ。肉体を持たぬエネルギー体である少女が、白い衣装の少女を連れ去って逃げているということだけだった。
白い衣装の少女、ヴァイスはシュヴァルツの槍化した右腕に身体を貫かれ、背負われた格好である。
意識を失っているのか、目を閉じている。
シュヴァルツの背に、ぐったり力のない様子で張り付いている。
アサキの飛ぶ原理は魔法であるが、シュヴァルツは一体どのような仕組みにより飛んでいるのだろうか。重荷を背負っているというのに実に速く、追い付くどころか差を縮めることも出来ない。
ただいたずらに、地面が猛スピードで後方へと流れていくばかりだ。
「仕方がない」
自分が人間じゃないみたいで嫌だけど、そうもいっていられない。
そう心に呟きながらアサキは、左手を前方へと突き出して、また非詠唱。伸ばした左手の、指の先からなにかが放たれて、シュヴァルツへと飛んだ。
五つの、黒い光の粒である。
魔閃塊という攻撃方法で、自分の指に破壊の魔力を込めて先端をちぎって飛ばしたのだ。
魔法による遠隔からの攻撃は届くまでに威力が減衰してしまうが、この方法は減衰がない。ザーヴェラーが、上空から地上の魔法使いを攻撃する時によく使う手法だ。
普通の魔法使いには自らちぎり取った身体のパーツを再生することなど出来ないため、まず使うことのない技であるが。
しかしながらというべきか、せっかく激痛を我慢して指先を弾丸にして放ったというのに、どう察したのかシュヴァルツは後ろを見ることもなく軌道を変えて楽々とかわす。
だけど、それで問題ない。
アサキの狙いは、そこにはなかったから。
爆音と共に土砂の間欠泉が噴き上がり、高く広い壁を作る。その突如出現した巨大な壁に、シュヴァルツは静止し一瞬の躊躇を見せるが、その一瞬の間に一キロの距離を詰め
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