第七十三話 何の価値もない思想家その十五
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「わからないけれど私」
「昔は貧乏な時や食べものがない時に食べるものだったんだ」
「それで言われてたの」
「刑務所でも食べるしな」
「そうだったのね」
「ああ、だからな」102
そうした事情があってというのだ。
「そう言われていたんだ」
「成程ね」
「けれど食べてみると悪くないだろ」
「だから私は結構好きだから」
このことをまた言うのだった。
「麦飯もね」
「じゃあ今度麦飯か十六穀物ご飯作るわね」
母が笑顔で言ってきた。
「そうするわね」
「お願いね」
「それでカレーにするから」
「カレーなの」
「実は美味しいらしいのよ」
十六穀物入りのご飯にカレールーをかけると、というのだ。
「夏こそしっかり食べないといけないし」
「カレーで食べるのね」
「十六穀ご飯はそれだけで栄養があるけれど」
「それに加えてなのね」
「カレーはお肉やお野菜が入っているから」
栄養バランスがいいのだ、だからこそ帝国海軍でも毎週カレーの日をもうけて将兵達に食べさせたのだ。
「だから尚更ね」
「夏にはいいのね」
「そう、だからね」
「今度それでカレー作ってくれるのね」
「そうするわ、だからね」
それでというのだ。
「しっかり食べてね」
「そうするわ」
咲は母の言葉に頷いた、そしてだった。
まだ読んでいる父にだ、真顔で尋ねた。
「カレー食べる方が吉本隆明の本読むよりずっと価値あるわね」
「当たり前だ、カレーは美味しいし栄養があるんだぞ」
父はつまみに出した柿ピーを齧りつつ娘に答えた。
「それならだ」
「吉本隆明の本よりずっと価値あるのね」
「吉本の本は頭の栄養にならないからな」
「だからなのね」
「読んでも時間の無駄だって言っただろ」
またこう言うのだった。
「カレー食べるのが時間の無駄か」
「絶対違うわね」
「そうだ、だからな」
「カレー食べる方がずっといいのね」
「変な思想家の本なんて紙の資源の無駄遣いだ」
父はこうも言った。
「電子書籍でも電機の無駄遣いだ」
「パソコンやスマートフォンにも電気かかるし」
「そうだ、しかしカレーはちゃんと栄養になるからな」
「ずっと価値あるのね」
「そうだ」
こう言ってだった。
父はまた飲んだ、咲はそんな父それに母との会話を楽しみつつこの日も多くのことを学んだのだった。
第七十三話 完
2022・8・1
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