第二部 1978年
影の政府
魔都ニューヨーク その1
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レーザーヤークト)の発案者か」
「眉目秀麗な青年で、大層聡明とも伺っております」
「なるほど」
「ゼオライマーのパイロットからも、常々、目を付けられていたそうです」
「それで」
「ゼオライマーのパイロット、木原に近づく手段として、その若君を学生になるよう手配して置いたのです」
「だが、その東欧の若様と、木原の関係とはどれ程の物なのだね」
「木原は、若君の妹に恋慕しておりまして、嫁に迎えたいと、結納をしたそうなのです」
「結納とは、初めて聞くが、どんな事なのかね」と、怪訝な表情を浮かべる。
東欧のポーランド出身で、カナダで育った補佐官には、なじみのない習慣だった。
結納とは、東亜特有の婚姻儀礼で、吉日を選び、婚約確定の為に、金品を取り交わす慣習である。
その起源は古く、鎬京に都をおいた西周の代にまで遡れる。
四書五経の一つ、禮記に記された「昏義」に六礼と謂う物がある。
(昏は婚の仮借文字で、婚儀の事を示す。古代支那では同音文字を仮借する事がしばしばあった)
六礼とは、「納采」「聞名」「納吉」「納徴」「請期」「親迎」と、言う。
その内の「納采」が、上古の仁徳天皇の御代に伝わり、帝室から公家へ、中世の頃に公家から武家へ。
やがて近代には、武家から豪商や名主などの富裕層を通して伝わり、今日「結納」とされるものである。
無論、マサキが、アイリスディーナとその親族たちに贈り物をしたのは、その結納の儀式の心算ではない。
ただ単純に、ユルゲンから光線級吶喊の詳報を貰った、お礼代わりに渡した物だった。
だが、事情を知らぬ外野の者たちは、違った見方をした。
木原マサキは、兄、ユルゲンの元に出向いて、婚姻の約束の挨拶に出向いた。
マサキの知らぬ所で、そういう具合に、話は出来上がっていたのだ。
一通り、結納に関する説明を受けた補佐官は、頷くと無言のうちに目を瞑った。
最初の頃は、白皙の美丈夫、ユルゲン・ベルンハルトを、教え子に持てると喜ぶそぶりも、見せてはいた。
だが、ああ、大変な青年を預かってしまったのだなと、一人、心の中で悔やんでいた。
車は、ハドソン川をかかる橋を越えながら、コロンビア大学のあるマンハッタン島に向かった。
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