飛び出したり 誘ったり 飛びかかったら その4
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(………………!)
横目で和奏の方を見てみれば、彼女の表情が良くわかった。
いつもは感情の起伏があまりないように見えた彼女だが、今は違う。その眉根はきつく寄せられ、視線は睨むかのように厳しくなっている。
まるで、自分に向けられたすべてを拒絶するかのような、不器用な威圧のようだ。
初めて目にした和奏のーー負の感情を露わとした表情に、衛太郎は思わず生唾を飲み込む。
やがて耐えかねたかのように和奏の口が開かれる。
しかし、その唇が言葉を発する前に、高橋先生の声がそれを遮った。
「はいはい。私が今日最後に聴きたいのは誰かーー決まってるでしょ? 遅刻の常習犯、田中大智!」
「はあっ!?」
その呼び声をすべて聞き終える前に、衛太郎の視線は大智の方へと向いていた。
思わぬ不意打ちを食らい、ネクタイを締めていた手を止めてガタッと音をたてて立ち上がる。周囲からももはや馴染んでしまったその二つ名にクスクスと笑い声が起こっていた。
「い、いや……俺はいつも朝練で早く来てるし、遅刻してないし!」
「おっ。言い訳? 男らしい〜♪」
抵抗虚しく、高橋先生から余裕たっぷりにたしなめられた上に、クラスメイト達からは「ひゅー、ひゅー♪」という野次が飛ぶ。
周囲に味方なし。まさに四面楚歌。
しばらく押し黙っていた大智だったが、やがて腹をくくったのか、緩んでいたネクタイをきっちりと締め直す。
「おし……じゃあ歌います」
今度は黄色い声援を受け、背筋を張って立つ。そのまま声高らかに宣言した。
「白浜坂高校校歌!」
帰って来たのは、「えぇー」という不満の嵐。どうやら、もっと面白みのある歌を期待していたらしい。
教室の空気が変わったことを確認すると、改めて和奏の表情をこっそりとうかがう。
すでに興味がなくなったのか、肘を着いて窓の外に顔ごと意識を向けていた。どうやら、よほど音楽のネタで関わられるのがいやなのかもしれない。前々から他人と距離を取っていたことからなんとなく予想はしていたが、それは的中したようだった。
ほっと胸を撫で下ろすと、ブーイングを聞き入れることなく大智が大きく息を吸い込んだのが聞こえた。
〜白き浜の声を聞き
長き坂道を登ろう
またたく日々と 刹那の友は
永久に広がるハーモニー
allegro vivace amoroso
歌おう 白浜坂高校〜
指揮も伴奏もない中で、ひとりだけの歌声が響く。体育会系の大智の声は、意外にも心地良く耳に入る若者特有の低音だった。
(意外と上手いんだ……)
ちょっぴり失礼な感想を抱きながらも、衛太郎はその歌声に耳を傾けていた。きっと他のクラスメイトも同じで、みんな静かに大智に視線を向けていた。
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