飛び出したり 誘ったり 飛びかかったら その4
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に評価していた。
「あ。でも、高橋先生ならちょうどいまそこですれ違ったぞ」
「それ早く言えよ!」
ぺちーん! 来夏のツッコミが平手となって大智の後頭部に命中。
(田中君、いまのはきみが悪いよ……)
衛太郎の中で、同情の気が引いたときだった。
そうこうしている間にも、周囲では応急的ではあるがなんとか準備が終わりつつある。このへんのチームワークは流石といったところだろう。伊達に三年間同じ学び舎で過ごしていたわけではないのだ。
そして衛太郎が数瞬遅れて席に着いたその瞬間、黒板側の戸が開かれた。
「はーい、みんな席に着いてー。今日はーー」
入ってきた高橋先生の姿を認めるのと同時に紗羽の目がきらりと光ったのを、衛太郎はその右後ろの席から確かに見た。
「花束贈呈!」
高橋先生の言葉を遮り、紗羽が宣言とともに立ち上がる。それに続きクラスメイトがそれぞれのプレゼントを抱えて席順に並び出した。
「え、えぇ?」
混乱する高橋先生をよそに、教卓には次々とプレゼントが積まれていく。
衛太郎もそれにならって、蓮の花束を教卓へと横たえさせる。戻り際に高橋先生を振り返り、軽く頭を下げた。その時視界に入ったのは、高橋先生の膨らんだお腹だった。
やがて全員が席に戻ると、黒板に大きく書かれた『高橋先生ありがとうございました!』の文を見て状況を飲み込んだ高橋先生が少し困ったように笑う。
「もう、ただの産休なんだから。でも卒業までに戻れなかったらごめんね」
嬉しさと寂しさの入り混じったような言葉にいち早く反応したのは、このサプライズ送別会を企画した紗羽だった。
「じゃあ今卒業式やろっか?」
「みんなで『仰げば尊し』とか歌う?」
来夏がそう続けたところで、教室の賑やかさが更に広がった。
いつものことながら、このクラスのノリの良さにはどこか着いていけないものがある。しかしなんだかんだで落ち着いてしまうこの空気は、嫌いではなかった。
やれやれと机に肘を着いた時、誰かが思いついたように声を上げた。
「坂井さん歌ったら?」
それを皮切りに、ただの賑わいが好奇の色に一転する。
「あぁ。それいい! 音楽科だったんだよね?」
「坂井さんの歌聴きたい!」
(まあ、そうもなるーーーーかな?)
先ほどの女子生徒が言ったように、和奏は音楽科から普通科へと移ってきた、極めて珍しい経歴の持ち主だ。普通科と音楽科の間ではほとんど交流がない。せいぜい文化祭の発表くらいだが、終わればそれっきりというのも少なくないほどだ。
そこに、何故かその音楽科から普通科にやって来たという変わり者がいれば、注目されるのは当然といえるかもしれない。
しかし、だからこそ衛太郎はその考えに賛同もできなかった
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