飛び出したり 誘ったり 飛びかかったら その4
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いね」と言われるがままに筒を手渡されると、紗羽は黒板の方へと行ってしまった。
来夏と一緒にと言われたことに少しひっかかるところがあったが、特に気にする必要もないとしてペーパーのリボンを解いていく。
「それじゃ、早くやろっか。高橋先生が来る前に終わらせないとだしね」
「ん。ああ……」
紗羽の紫陽花から新聞紙を取り外す来夏の手の運びは軽やかで、どこか機嫌が良さそうにも見えた。
「うん。こんなトコかな」
リボンとペーパーによって可愛らしくまとめられた紫陽花の花束を確認して、紗羽は満足そうに頷いた。
「もー。家でやってくればいいのに、ねぇ?」
ぶーたれながら同意を求めてくる来夏に、愛想笑いをしながら目を逸らす。
衛太郎としてはこのくらいなんともないのだが、彼女は納得がいかなかったようだ。
「ホント、ありがとうねー。お礼に今度何か奢るから」
「あっ。あたし学食のラーメンセットがいいな!」
「来夏はダメ。いつも奢ってるじゃん」
「ええー。何だよケチんぼー!」
「津川は何か食べたいものとかある? あ、あんまり高くないのね」
テープやらリボンの切れ端やらを片付けていた衛太郎は、紗羽からのそんな質問に少々驚いてしまった。
「えっ? い、いや……俺はいいよ。たいしたことやってないし……」
「そんなことないって」と言ってひらひら手を振る紗羽の申し出はありがたいが、残念ながらそれを素直に受け入れられないメンタルしか持ち合わせていない。
ごまかすように視線を逸らしていたら、教室のうしろの引き戸がガラッと勢いよく開かれた。
それから教室に駆け込んできたのは、ひとりの男子生徒。
「あっ、田中君来たよ!」
「やばい! 先生来るぞ、みんな早く準備終わらせろ!」
誰かがそう言った直後、クラス中の全員がこれまで以上にばたばたと走り回る。
それを見て苦い顔をしたのは、登校して来たばかりの男子生徒だった。
「お前ら、何で俺が来ると急に焦り出すんだよ……」
「自分の胸に手を当てて考えろ!」
他のクラスメイトと同じく片付けを急ぐ来夏に叱責された男子生徒ーー田中大智(たなか たいち)は、夏らしい短髪をかきあげながらさらにその表情を渋くした。
反論できないのも無理もない。この白浜坂高校バドミントン部唯一の部員は、毎日のように体育館で朝練に励んでいるのだ。だが、それが原因で今のように遅刻してしまう。それで担任教師からは『遅刻常習犯の田中』という不名誉な覚え方をされ、クラスメイトからはそれをネタにされている。その証拠として、紅葉色のネクタイは手に握られたままだった。
不憫とは思いつつも、いつも練習を欠かさないその努力家の精神は衛太郎も密か
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