第一章
[2]次話
どうしても食べたい
この時隅坂裕司は家に帰るなり強い声で言った。
「イカ墨のスパゲティを食いたいな」
「えっ、またいきなり言うわね」
妻の知代は夫の言葉に驚いて言った、赤茶色の髪の毛を後ろで束ねていて大きな目を持っている、唇は小さく顎の先が尖った顔であり背は一五八位でメリハリの利いたスタイルである。普段はスーパーでパートをしつつ家事と子育てに忙しい。
「まだお昼じゃないけれど」
「ああ、そのお昼にな」
夫は妻に話した、黒髪をスポーツ刈りにしていて長方形の顔で目は小さめで唇は引き締まっている。背は一七七位で少し腹が出ている以外は均整が取れたスタイルだ。食品会社の管理部門で働いている。
「食いたいんだよ」
「じゃあお昼それにする？」
「ああ、家にスパゲティあるのな」
「ないわよ」
妻の返事はあっさりとしたものだった。
「この前全部使ってね」
「それでか」
「あるのはオリーブオイルとね」
パスタに絡めるそれと、というのだ。
「大蒜よ」
「どっちもスパゲティに欠かせないな」
「ええ、けれどね」
「肝心のスパゲティがないか」
「あとソースもね」
これもというのだ。
「イカ墨ね」
「そうか」
「それで私子供達にオムライス作ってね」
そうしてとだ、休日の午前中の自宅で話した。
「食べるつもりだったけれど」
「じゃあ俺はか」
「あんたの分も作るつもりだったけれど」
「いや、今日の俺はだ」
夫は強い声で言った。
「お昼はな」
「イカ墨なのね」
「そのスパゲティだ」
そちらだというのだ。
「本当にな」
「そうなのね」
「だからオムライスはな」
「私達が食べろっていうのね」
「そうしてくれ」
「わかったわ、ただあんたスパゲティ食べるなら」
それならとだ、妻はさらに言った。
「買いに行ってよ」
「スーパーまでか」
「イカ墨のソースも私がパートしてるとこにあるし」
そのスーパーにというのだ。
「行ってきたら」
「そうするか」
「それで作るのも」
こちらもというのだ。
「あんたでね」
「作ってか」
「食べたら？」
「後片付けもね」
これもというのだ。
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