第十二話 ジェーン=グレンの処刑その六
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「そこでお話を聞くとね」
「色々な人がいるってことがわかるのね」
「それぞれの人に事情があるよ」
春香の内面を見ていた。彼女が気付かないうちに。
「だから。そうした事情も踏まえて」
「信じていいのね」
また望を見た春香だった。望は一旦部室に入ろうとしている。そこで着替えて校舎に入る。朝練の後の展開は既に決まっているものだった。
「そうして」
「いいんだよ」
十字は表情のないまま答える。
「そうしてね」
「そうできるのかしら」
「できるよ。誰でもね」
「誰でもって」
「人は微かにでも良心があれば神がそれを御覧になられているんだよ」
「良心・・・・・・」
その言葉を聞いてもだった。春香は。
さらに俯くばかりだった。それで言うのだった。
「良心があれば」
「そう。それがあるならね」
「そんなことは。私には」
「君にはあるよ」
春香の否定を否定する形になった。
「ちゃんとね」
「私に良心があるのかしら」
「良心のない人間の目はどす黒く濁って澱んでいるものだよ」
十字の目には感情は見られないがそうしたものはわかるというのだ。
「けれど君の目はね」
「違うのね」
「だから神はお救いになられるから。神とその人を信じて」
「神様を」
「そう。そのうえで一歩踏み出せばいいんだよ」
そうするべきだというのだ。春香は。
「そうしようって決めたらね」
「今すぐでなくていいの?」
「今すぐにとは言っていないよ」
十字はそれは否定した。時間はすぐでなくていいというのだ。
「何時でもいいから」
「そう。何時でも」
「そうなの」
春香は俯くままだった。そうしてだった。
今は足を前にはやらなかった。だがそれでもだった。
十字はその彼女に対してだ。ここではこう言うのだった。
「では。僕はこれで」
「クラスに入るの?」
「そうするよ。では今日はこれでね」
「それじゃあね。またね」
「僕は今はね」
こう言うのだった。そしてだった。
春香は今は後ろめたさに満ちた目で望を見て彼を出迎えるだけだった。しかし十字はその彼女を見ていた。そのうえで神も見ているのだった。
この日の昼休み雪子は校舎の屋上にいた。そこには一郎も一緒だった。
雪子はその一見すると整っている顔を悪鬼の如く歪ませてだ。こう兄に漏らした。
「藤会はどんどんやられていってるのね」
「そう。だからね」
「お薬を手に入れるルートは今のところはなのね」
「あのお店しかなくなったよ」
「わかったわ。じゃあ私に任せて」
表情をいささか人間のものに戻して兄に返した。
「ばれない自信はあるから
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