第十二話 ジェーン=グレンの処刑その五
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「宮本さんは今心を確かに持ってね」
「そうしてなんだね」
「そう、君の傍にいてくれる人を大切にするんだ」
「というと」
「君が一番よくわかっている筈だから。それじゃあね」
ここまで言ってだ。十字は二人の前から姿を消した。そのうえで校門から校庭に進む。校庭では丁度サッカー部の朝練が終わった。そこに望もいた。
だが今彼は部活の仲間達とだけいる。そこには彼女はいなかった。だがその場にいないだけでだ。彼女は校舎の下駄箱のところにいた。
その彼女を見てだ。十字は白い風の様に進みだ。そのうえでだ。
今度は春香に対して声をかけた。そうしてこう言うのだった。
「おはよう、本木さん」
「えっ、確か貴方は」
「佐藤十字だよ。覚えてくれてるかな」
「ええ、そうだったわね」
ぎくりとした様な顔でだ。春香は十字に応える。
「美術部の」
「そうだよ。ところでね」
「ところで?」
「今日はどうしたのかな」
何も気付いていないことを装ってだ。十字は春香に淡々と述べた。
「一体」
「今日はっていうと」
「サッカー部の部活が終わったけれど」
「そうね。朝練はね」
「校舎には入らないのかな」
「少し。ここにいたいの」
春香もだった。俯きだ。そのうえで十字に答えたのだった。
「今は」
「この下駄箱に」
「そうなの。ちょっと」
どうかというのだ。困った顔でだ。
そしてそのうえでだ。こう言ったのだった。
「今はね。少しね」
「一歩前に出たらどうかな」
「一歩?」
「そう、一歩ね」
これが十字の春香への言葉だった。
「一歩。出ればどうかな」
「一歩。どちらに」
「本木さんが踏み出したい方にだよ」
そこにだ。踏み出してはどうかというのだ。
「そうしたらどうかな」
「私が踏み出すの?」
「そう。信じられる人はいるかな」
十字は目にも表情はない。しかしだった。
その目で春香を見つつ。そのうえで尋ねるのだった。
「そうした人は。いるかな」
「ええ」
遠くで爽やかな笑顔の、今の自分とは対象的な望を見ながらだ。春香は十字に答えた。
「私にもいるわ」
「ではね。その人を信じてね」
「一歩踏み出せばいいの?」
「例え何があっても」
密かにだ。春香の秘密に言及した。
春香もその言葉を聞いて内心ぎくりとなった。だが十字が知っている筈がないと思いそれは一瞬で終わらせ己の心の中に収めてしまった。
そのうえでだ。こう十字に返した。
「それでもなの」
「何もない人はいないから」
「何も」
またあのことを思い出した。それでさらに俯いてしまった。
だがそれでもだ。
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