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趙弁の勇気
第三章

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 まずは観木を伝って岩の横に降りてだった。
 そこから岩のところを這って登ろうとしたが。
「無理だな」
「桃が多過ぎて重くなっている」
「やはりそれが難しい」
「鳥になるか出して一個や二個持って来るなら兎も角」
「術も使わずあれでは」
「やはり難しい」
「桃を捨てるかな」
 兄弟弟子達は考えた、だが。
 ここでだ、趙弁は。
 懐の桃の木を全て岩の上に放り投げた、そうして。
 岩を登った、身体が軽くなると彼は何とかにしても登りきることが出来た。
 その彼に手を差し伸べてだ、張陵は言った。
「桃は捨てなかったか」
「はい、捨てずともです」
 趙弁は師の前に立って答えた。
「岩の上に投げてです」
「そこに置いてか」
「後でお師匠様に差し出せばいいと考えまして」
 それでというのだ。
「その様にしました」
「そうか、考えたな」
「これでいいでしょうか」
「よい、第一の及第とする」
 張陵は微笑んで答えた。
「そなたは術を使わず最も多くの桃を取ったのだからな」
「だからですか」
「そなたこそだ」
 こう言うのだった。
「第一だ、術に頼らず身体を使った勇気もあるしな」
「勇気ですか」
「道術にも必要だ」
 勇気はというのだ。
「人を救う為の術だからな」
「人の危機を見て使う」
「そうだ、だからな」
「私にはその勇気もあるので」
「尚更だ」
「第一の及第として頂けますか」
「そうだ、ではまずそなたに道術の極意を教えよう」
 他の弟子達に先んじてとだ、張陵は言ってだった。
 張陵に桃を一個差し出し続いて他の弟子達にも出して食べさせた。そうして山から下りてからだった。
 極意を最初に彼に教えた、それから他の弟子達に教えていった。後に五斗米道にこの人ありと言われる趙弁の若き日の逸話である。


趙弁の勇気   完


                 2022・5・13
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