第二章
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「そうだよ、だからね」
「あちらにだね」
「行ったらどうかな、それなら背中に乗せて川を渡らせてあげるよ」
「おっと、それは止めておくよ」
お猿は笑顔でご主人に返しました。
「そうでなくても泳げば行けるけれどね」
「おや、いいんだ。美味しいものが一杯あるのに」
「だってあんた僕を食べるつもりだね」
ご主人に笑って言うのでした。
「奥さんが猿の心臓を食べたいと言って」
「そ、それは」
鰐のご主人はギクリとなりました、まさにその通りだからです。
ですが心の中のそれを抑えてです、お猿に返しました。
「違うよ」
「本当にそうかな」
「そうだよ」
お猿に必死に言います。
「安心していいよ」
「隠しごとは出来ないぞ」
ここで、でした。お猿は。
急に厳かな声になりました、そうしてです。
文殊菩薩の姿になりました、そうして鰐のご主人とその傍で一緒にいる奥さんに言いました。
「私にはな」
「菩薩様!?」
「そんなまさか」
「そのまさかだ、私は猿に生まれ変わっていたのだ」
菩薩は厳かな声で言うのでした。
「だからそなた達の言うことも聞こえていた」
「菩薩様の耳だから」
「そうなのね」
「鰐は川に来る生きものを食べるもの、それがいいが」
菩薩は鰐の夫婦にお話しました。
「騙してでもはよくないな」
「そのことですか」
「左様、川に来たり中にいる生きものを食べることはいいが」
しかしというのです。
「騙してまではな」
「よくないですか」
「そうだ、しかし妻の願いを聞いてのこと」
このことも言うのでした。
「そのことはいい、だからそれに免じてだ」
「そうしてなのですか」
「そなた達に猿の心臓ではないが同じ様なものを与えよう」
「そうしてくれるのですか」
「そうだ」
まさにというのです。
「これよりな」
「その同じ様なものとは何でしょうか」
「あれだ」
菩薩は自分達の傍を指差しました、そこも川辺で。
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