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展覧会の絵
第十話 思春期その十五

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「罪や。悪を知ることは」
「そのことを知ることもまた思春期ですね」
「子供の頃から。それは学ぶよ」
「原罪という考えもありますね」
「原罪は実は主によって清められていた」
 十字はここでは聖書にあることをそのまま己の見解としていた。
「だから。人は生まれそうして生きていく中で罪を知る」
「罪と悪を」
「そして徳と善を」
 相反するそれぞれのものをだ。知っていくというのだ。
「知っていくけれど」
「それを深く知り確かなものにするのは」
「思春期だよ」
 まさにだ。その時にだというのだ。
「この絵の時にこそね」
「形成されていきますね」
「生きている中で最も悩み苦しむ時でもある」
 十字は思春期についてこうも述べた。
「そしてそれが。外からのものであり悪に基くものならば」
「それはすぐにですね」
「取り除かないとならない」
 十字の見解だった。これもまた。
「そしてその悪は神が裁かれるものだから」
「その通りですね。では」
「それが僕の務めだから。それと」
「今日のお務め以外にも」
「幹を切っても枝はまだあるから」
 それでだ。そうした枝をだというのだ。
「全て取り払うよ」
「少なくともこの町にある枝は全て」
「神戸にね」
 あるだ。そうした枝は全てだというのだ。
「全て焼いてしまおう」
「神の業火で」
「それからだね。彼等の裁きを代行するのは」
「では暫くの間は」
「休むことはないよ」
 それは最初から考えていないという言葉だった。
「決してね」
「既に枝のことも調べていますので」
「有り難う。それでは」
「はい、お務めに励んで下さい」
「そうさせてもらうよ。では今日は」
「はい、今日は」
 その暗い、夜の中に浮かび上がるムンクの絵を見つつだ。二人は話した。
「休みましょう」
「そしてまた明日だね」
「そうですね。明日にまた」
「務めを行おう」
 こう話してだ。彼等は画廊を後にしたのだった。そしてその彼等を絵達が見送る。もの言わぬがそれでもだ。二人を静かに見送り画廊の中で彼等もまた休息に入るのだった。


第十話   完


                    2012・3・29
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