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冥王来訪
第二部 1978年
狙われた天才科学者
一笑千金 その5
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くなるや、困惑した表情のマライは、そっとアイリスディーナに近づき、
「アイリスさん、あなた本当に木原マサキという男と一緒になるの……」と訊ねた。
アイリスディーナは、マライの方を振り返り、
「ハイゼンベルクさん」と笑顔で応じた。
「とても不気味な男よ、心配で……。今だって顔色が良くないし」
アイリスディーナは、両方の頬に両手を当て、
「大丈夫です。マリッジブルーって言葉があるじゃないですか」と、微笑む。
黄昏の中でも、その顔は、真珠の様に白かった。
何時もは、胸の奥深くに秘する思いを、齢も近い、ユルゲンの同僚に思わず、
「一生をこの国に捧げる積りでしたし、自分が結婚するなんて夢にも思っていなくて」と、打ち明けた。


 アイリスディーナも、また不幸児であった。
生母の不倫という形で、幼少期に両親の離婚を経験し、家庭と言う物に絶望しか感じていなかった。
そのためか、恋愛や結婚をあきらめている節があった。

「木原さんは、そう、良い人に思えますし……」
(『どこか、心をざわつかせ、組み敷かれるような威圧感はある不思議な人。
だけど、たぶん、心の優しい方。
中国政府からBETA退治を依頼された時も、ミンスクハイヴ攻略も、結局、聞き届けてくれた。
自分の犠牲をもいとわずに……』)
アイリスディーナは、心の中で、知らず知らずのうちに、そう思った。


そんなアイリスディーナの姿を見かねた、ヤウクは、
「アイリスちゃん、君は拒否する権利があるんだよ。
ここは、婦人の基本的人権が認められた民主共和国だ。ボンの貴族社会とは違う。
嫌ならはっきり、いいなよ。ユルゲンに気を使ってるのかい」
と、諭すように、告げ、優しい顔で(なだ)める。
「君は、未だ二十歳にもならない深窓の令嬢。世間を知らないから、あの男の怖さを分からないんだ」

 ヤウクは、木原マサキと言う人物を、心から(おそ)れた。
天のゼオライマーを駆り、世界を股にかけ、周囲の迷惑を顧みずに、好き勝手振舞う様は、まるで鬼神が如し。
そんな人物に、可憐なアイリスディーナを嫁がせることを、
「君は人が好過ぎる。心配だ」と、長嘆(ちょうたん)した。





 さて、マサキ達と言えば、3台の公用車でハンブルグへの帰路に就いた。
チェックポイントチャーリの厳重な検査を抜けた後、西ベルリンに給油のために立ち寄る。
ソ連製の石油と中東産の石油は品質に違いがあり、また東独の精油施設は西独よりはるかに劣っていた為でもあった。
 東独高速道路網は、ソ連軍の管理下にあり、東独交通警察や人民軍はいないも同然の扱いだった。
東独領内のインターチェンジの立ち入りは、厳しく制限され、ベルリン駐留の米英仏軍ですら容易に近づけなかった。

 再び、西ベルリン
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