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冥王来訪
第二部 1978年
狙われた天才科学者
一笑千金 その5
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の人物にするつもりだ」
その話を聞いたベアトリクスは、嫣然(えんぜん)と笑い、
「どう。ユルゲンはいい人でしょう。こんなの探しても中々いないわ」とマサキの言葉に、ただただ喜び抜ていた。
ベアトリクスの機嫌は一通りではなく、先程までとは別人だった。
マサキは、その様子を見て思う所が在ったものの、酒席と言う事もあって、あえて問い質さなかった。

そんな折、現れた鎧衣は、マサキにそっと、日本語で耳打ちをする。
「木原君、屋敷の周囲は、ぐるりと警備兵がいる。油断は出来ぬと……」
「そうすると、俺は最初からアイリスと一緒にならなければ出られぬと言う事か……」
懐中より取り出した、2箱目のホープの包み紙を開けながら、
「鎧衣よ、貴様もしてやられたな。で、武器は……」
「今持ち合わせてるのは、西ドイツ製の短機関銃(マシンピストル)二丁と自動小銃一丁と言ったところか」
しばしの沈黙の後、
「俺は今、最高にいい気分だ。荒事をするつもりは無い」
と、ライターを出し、おもむろに紫煙を燻らせた。


 
 マサキは箸を止め、アイリスディーナの方を向き、
「少々、料理の盛り付けも多かったか」と、目を細め、
「なかなか話してみれば社交的ではないか。兄や父親のお陰か」と訊ねた。
「ありがとうございます」
「ずっとベルリンで暮らしてたとか……両親は」
凡その話は把握済みであったが、詳しい話を、当人の口から伝え聞きたかった。
アイリスディーナは、顔色を曇らせ、
「幼い頃、離婚しました。私は特権階級(わけあり)の可哀想な子でした」
マサキは、じっと聞き入りながら、美久に注がれたコーラのグラスを取って、唇を濡らす。
「仕事熱心な父は、家庭を(かえり)みない人で、母は寂しさから間男に走って、私たちを捨てました。
その後、親権を勝ち取った父は、色々あって育児を放棄しました」
アイリスディーナは、実父ヨーゼフ・ベルンハルトが酒害の末、発狂したことは伝えなかった。
隠すつもりは無かったが、言えなかったのだ。



「それで、屋敷に居た、あの爺と婆に育てられたのか」
「言わせてくれ」と、ユルゲンが、瞋恚(しんい)をあらわにして、呼びかけた。
「貴方」とベアトリクスが袖をつかんで引き留めるも、立ち上がり、昂然と、
「たしかに俺やボルツさん夫妻が、世間の辛い風も当たらぬように育て上げた。
何か問題でもあるのか」と言いやった。
マサキは、静かに杯を置くと、
「俺の心にかなった娘ゆえ、その背景までも、詳しく聞いてみたくなったものよ。
しかし、妻を持つ身にしては、男女の心の在り方も分からぬとは。相変わらず、無粋よの」
と、満面に喜色をたぎらせ、黒い瞳で、ユルゲンを睨み返した。

「兄さんも私も、無償の愛や家族の幸せなんて、信じ
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