第二部 1978年
影の政府
米国に游ぶ その2
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官房を操縦して、ユルゲンの理想の為に。愛の為に。
その様な思いを、密かに胸に抱いて、執務室の扉をくぐった。
執務室で、5年に及ぶBETA戦争に関わった人員への、叙勲手続きの書類を決裁している時である。
「失礼いたします」
大臣は、ふと耳を打たれて、振り向いた。そして肉づきのよい真白な佳人の影を、扉の向こうに見た。
年ごろはまだ十八、九か。とにかく、仙姿玉質たる美貌の持ち主である。
灰色の婦人兵用勤務服という格好であるが、匂い立つような色香までは、隠せなかった。
ウェーブの掛かった長い髪に、綺麗な山形の眉、すっと通った鼻筋の下に、浮かぶ薄い桃色の唇。
さらに、大臣が眼をみはったのは、その真白な面に浮かぶ、紅玉のような赤い目。
潤んでいるように見える眼は、何処か愁いを湛えているようで、その愁いまでが美しい。
「御招きにより出頭いたしました、ベアトリクス・ブレーメです」
と、頬を染めながら、彼女は旧姓で答えた。
こういう場所では、夫ユルゲンの名を出すより、父アベールの名のほうが良いと打算した結果である。
あんまり可憐な受け答えなので、大臣は、汐らしさよと、思わず向かい側で微笑していた。
国防大臣は、ベアトリクスの事を詳しく知らなかった。
国家人民軍は、平時人員10万人、戦時動員40万人の巨大組織だったためである。
将校や職業軍人の下士官の他に、1年半の徴募兵、4年の予備士官、3年の予備下士官等の任期制軍人。
戦時下に軍に編入される民兵組織の労働者階級戦闘団、建設部隊と呼ばれる徴兵忌避者の為の部隊まで管理せねばならなかった。
BETA戦の推移や今後の国防計画で忙しい彼等に、他省庁の幹部子弟にまで目を配る余裕すらなかった。
士官学校長と本来の配属先だった第一戦車軍団長のシュトラハヴィッツ少将が認めた推薦状を見て、
「中々、見どころのある士官学校生じゃないか。何、任官したての少尉か。まあ、かけなさい」
と、着席を促され、間もなく口頭試問が始まった。
国防大臣から直々の試問をうけても、彼女は、自己の才を、調子よく見せびらかす様な真似はしなかった。
あくまで初心でお淑やかな令夫人のごとく、初対面の貴人へ印象づけた。
「なるほど、アルフレートの吹挙だけあって、この内室なら、大臣官房の職員に加えても恥ずかしくはないな」
大臣は、ベアトリクスを一見するや、すっかり気に入ってしまったらしい。
秘書官の列をかえりみては、
「どうだな。同志諸君はどう思う。彼女は、なかなかよい人相をしているではないか」
などと品評したりして、即座に採用と、事は決まった。
こうして、ベアトリクスは、図
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