第二部 1978年
影の政府
米国に游ぶ その2
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
着こなし、黒一色の軍靴をハイヒールの様に履く。
長身を翻す、その様は、軍神アテネを思わせると、持て囃したアイリスディーナが。
男装の麗人と、後輩たちが憬れていた、あのベルンハルト候補生が……。
乙女のような髪型をして、優しい言葉を述べる様は、周囲の人間を仰天させた。
本当は、気持ちの優しく引っ込み思案な娘なのだが、士官学校に入り、あえて兵隊言葉を使う。
男物の野戦服を着て、膝まで長靴の底を鳴らし、凛々と兵営の前を歩いて見せた。
いちいち指導するベアトリクスが傍にいないのも大きい。
やはり、一番の影響は、木原マサキの存在であった。
「もう少し、女らしく自由に生きてみよ」との、言葉と共に交わした口付けは、それほど強烈であった。
午前の研修を終え、食堂で、一人資料を読みながら、軽食を取って居る折、
「なあ、御嬢さん。となり座っても良いか」と、数名の若い将校が、声を掛けて来る。
見ると、黄色い歩兵の兵科色をした肩章を、それぞれ付けていた。
彼等の着ている勤務服の生地は、上質なウールサージで、階級や年齢にそぐわない。
恐らく、テーラーで仕立てた物。党幹部や軍上層部の公達であろうか。
色々目立つ自分に、ちょっかいを出しに来たのだろう。
彼等の様を一瞥した後、顔を背けて、資料に目を落としていると、間もなく、
「ユルゲンの妹さんって、君か」と、脇から来た男が、彼女の肩を叩いて、
「アンタみたいなお姫様は、こんな奴等と遊んじゃだめだよ」
と、困惑するアイリスディーナをよそに、彼女の隣に座り、持ってきた食事を摂り始めた。
すると、一人の青年将校が、声を荒げ、
「なっ、何を、もう一度いってみろ」と、憤懣遣る方無い表情で、男を睨んだ。
彼女の脇に座った中尉は、 サングラスの下から、立ち竦む男達に、侮蔑するような目線を向ける。
「なんだ貴様、声を掛けたのは我々が先だぞ。割り込みとは、怪しからん」
青年将校がつぶやいた一言に、一方のアイリスディーナも、ぴくりと顔をあげていた。
すると、音も無く背後より、トレーを持った偉丈夫が現れ、彼女の周囲にいる将校達に、
「彼女の兄貴からの先約なんでな。帰ってくれ」
と、両方の眼と、眉を吊り上げ、仁王の様な形相をして、凄んでみせる。
声は、部屋の天井に木霊し、殺気は轟く雷鳴のようであった。
そのすさまじさに、彼女の周囲にいた者どもは、思わず、あッとふるえおののいた。
そして、にわかに、
「後で覚えていろよ。戦術機乗り共が」と、負け惜しみを言って、引っ返した。
アイリスディーナの脇に来たのは、兄ユルゲンの同級、カシミール・ヘンペル少尉。
ヘンペル少尉
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ