第二章
[8]前話
「それで心配だったが」
「ボクシングをはじめられてですか」
「腰がよくなって体力もな」
母子で庭掃除をしている妻の春子を見つつ話した、一五〇ない位の背で優しい顔立ちをした白い短い髪の毛の老婆である。
「ついてきた」
「そうなったんだですね」
「全体的に元気になった」
ボクシングをはじめてというのだ。
「声にもハリが出た、わしより長生きしそうだな」
「そこでそう言います?」
「ははは、そう思うからな」
娘婿に口を大きく開けて笑って話した。
「だからだ」
「そう言われますか」
「そうだ、しかしもうな」
「もう?」
「工事現場の監督だったわしにも勝てるかもな」
「それはないですよ」
「わからんぞ、女房と娘の二人がかりだとな」
それで来られると、というのだ。
「そうなるかもな」
「柔道八段でもですか」
「うむ、しかし女房が元気になってな」
「よかったですね」
「そうだな、これからも続けて欲しい」
こうも言うのだった、そしてだった。
巧は深雪と共に自宅に帰ると妻にこんなことを言った。
「スポーツやるといいんだな」
「ええ、身体にもいいし気分もね」
「すっきりするな」
「本当にいいわよ」
「ボクシングもか」
「何ならあなたもやってみる?お母さんもしてるし」
「やってみるか、何かこのままだとな」
こうもだ、巧は言った。
「俺が一番弱くて不健康みたいだし」
「それでなのね」
「やってみるか」
「じゃあお父さんも誘ってね」
「一家全員でやってみるか」
「そうしましょう」
二人で話してそうしてだった。
巧もボクシングをはじめて義父もそうした、すると一家全員健康になった。それでボクシングはいいものだと四人で実感したのだった。
ボクサー一家 完
2022・10・22
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