第一章
[2]次話
慰謝料は誰が払う
弁護士をしている田原真彦白髪頭で知的な面長の顎の先がやや尖った顔立ちで眼鏡をかけた中背で痩せた彼はその仕事を見て落ち着いて述べた。
「ああ、これはもうよくあるね」
「そうしたお仕事ですか」
「うん、奥さんが浮気して離婚する」
新米弁護士の新山美穂黒髪をショートにしていて丸顔で優しい目をした一六〇程の背をグレーの清潔な感じのスーツで包んだ二十代の彼女に話した。
「よくある話で間に入ってね」
「揉めない様にしてですね」
「慰謝料のお話もまとめる」
「そうしたお仕事ですね」
「弁護士の仕事では常だから」
それでとだ、新山に話した。
「勉強していこう」
「わかりました」
新山は田原の言葉に笑顔で応えた、そうしてだった。
浮気した妻と怒って離婚を言う夫の間に入ってだった。
田原と共に調停を行い慰謝料の話もしていった、家庭裁判所に行く話には田原がせずお互いに傷付けずにだった。
示談で済ませ離婚となるが二人の間に子供はいなかったので親権の話もなく後は慰謝料の話だけになったが。
ここでだ、妻側の父咬汰好機細い剣呑なチンピラが放つ光を持つ目に猿そっくりの険しい人相の顔に一六七程の背の丸坊主の彼がだった。
弁護士事務所に怒鳴り込んでだ、こんなことを言い出した。
「おい、何でうちの娘が慰謝料払うねん」
「えっ、何と」
「慰謝料なんて男が払うもんやろが」
彼は応対した新山に言った。
「そうちゃうんか、それに浮気されたんはあいつが悪いんやろが」
「ご主人がですか」
「そや、浮気されたんは旦那がしっかりしてへんからや」
だからだというのだ。
「それで何でや」
「娘さんが慰謝料を払うのかですか」
「おかしいやろが、あいつが全部払えや」
「それは無理です」
唖然とする新山の横からだ、田原はすっと出て来てだった。
何故彼の娘が慰謝料を支払わねばならないのかを法律そして倫理を根拠に話した、それでも咬汰はわからずだった。
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