第二部 1978年
狙われた天才科学者
一笑千金 その2
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ではありませんか」
立ち竦むアベールは、両腕を組むと彼の方を向いた。
「ユルゲン君。君は自分を、そう卑下する物ではない。
……議長は外に出して学んできて欲しいと、君に言っているのだよ」
「お前さんたち、悪童どもが集まって西の新聞を熱心に読んでる件……」
男は、燻る煙草を持つ右手で、灰皿へ灰を落とす。
「その事は、俺の耳にまで伝わっている。
まず一人、ニューヨークで遊学して来い。詳しい話は追ってする」
ユルゲンはひどく怪訝な顔をして、二人に尋ねた。
「ベアトリクスとではなくてですか……」
外交官の子息として単身留学に強烈な違和感を覚えたためであった。
訝しむ彼の眼前に立つ二人は、一瞬狐につままれたような顔になる。
呆気に取られたアベールが尋ねた。
「娘から、何も聞いてないのか……」
「何のことですか」
さっぱり事情がつかめず両目を瞬きさせるユルゲンを見て、男は思わず苦笑を漏らした。
「アベール、余り追及してやるな。若夫婦だから色々あるのであろう」
哄笑する声に吊られて、アベールも追従した。
相も変わらず感の鈍いユルゲンに呆れたヤウク少尉は、深いため息をついた。
「同志ヤウク、君には英国のサンドハースト士官学校に留学してもらう。
空軍士官学校次席の人間が今更そんなところに入るのは馬鹿らしいかもしれんが……」
議長の呼びかけに対して、抜からぬ顔をしたヤウク少尉は直立して答える。
「人脈作りですか」
男は、深く頷く。
「話が早くて助かる。西の王侯貴族の連中と人脈を作る……、大変であろうがその事を君に任せたい。
それに君の出自はヴォルガ・ドイツ人、事情を知る人間からは同情も引こう。
その点も考慮しての人選だ。遠慮なく学んできてくれ」
机の上で指を組んで、一瞬戸惑うヤウク少尉を見る男は、続けざまにこう漏らした。
「シュトラハヴィッツ君の愛娘を迎え入れるのに、ふさわしい男になる覚悟。
十分、確かめさせてもらった。
後は君の努力次第……、話は以上だ。下がって良い」
「了解しました」
男に挙手の礼をした後、ヤウク少尉は両手で軍帽を被るとドアに向かう。
ヤウク少尉は、自分の思い人を考えた。
一通り学び終えたころには、彼女も花を恥じらう乙女になっていよう。
10歳以上離れた娘御とはいえ、一目惚れしてしまったのだ……。
何れ18になったら迎えに行こう、そう思いながら部屋を後にした。
椅子に腰かけていたユルゲンは、勢い良く立ち上がる。
「同志議長、用件が済んだなら自分も……」
一服吸うと、彼の方を向き、答える。
男は相好を崩すや、次のように言った。
「実はとっておきの客を招待している」
ユルゲンは喜色に満ちた顔を引き締め、背筋を伸ばす。
「近いうちに木
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