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ハッピークローバー
第三十八話 嫌な奴もいないその十一

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「赤鬼と呼ばれていた」
「冷酷でそれでか」
「そうだった、そして赤鬼はな」
「見事首を取られたんだな」
「鬼退治を受けたな」
 越智は無表情で言った。
「正直俺もだ」
「やっぱりざまみろだね」 
 伊東もこう言った。
「あの人については」
「そうだな」
「嫌いだからね」
「お前もだな」
「三国志一の悪役が董卓で」
 そしてというのだ。
「幕末一の悪役はね」
「あの人だな」
「まさにね」
 こう言うのだった。
「そうだね」
「タイプは違うがな」
「董卓は暴虐タイプで」
「あの人は独裁者だ」
「暴走した」
「芸術家タイプだったのがな」
 それがというのだ。
「和歌も詠んだしな」
「董卓って詩人の感じしないしね」
「曹操さんはそうだったがな」
 彼は詩人としても名高い。
「しかしな」
「董卓は違っていて」
「酒池肉林で残虐でな」
「無茶苦茶していたな」
「そうだったな」
 このことは三国志演義だけでなく史書にもある、彼に暴虐の傾向があったことはおそらく事実である。
「同じ悪役でもな」
「井伊直弼さんとは違うね」
「井伊直弼は暴走はした」
 越智は言い切った。
「そして多くの人を殺した」
「独裁者で」
「蟄居も濫発した」
 兎角刑罰を多くした人物であった。
「しかしだ」
「残虐じゃなかったんだね」
「それはなかった」
「死刑は濫発しても」
「しかも幕府を乗っ取るつもりはなかった」
「董卓は自分が取って代わるつもりだったけれど」
「漢王朝を倒してな」
 その事前準備として少帝を廃嫡した後弑逆したのである。
「そうしてだ」
「自分が皇帝になるつもりだったね」
「そうした奴だった」
「けれど井伊直弼さんは」
「幕府を護る為にだ」
「ああしたことをしたね」
「幕府への忠義は確かだった」
 董卓と違ってだ。
「それは間違いない」
「まああれだよな」
 達川は考える顔で述べた。
「この世に出ることなく終わると思っていたら」
「殿様になってな」
「大老になったんだからな」
「何かと思うところがあってもだ」
「当然だね」
「しかも色々なことに打ち込んでいたからな」
 このまま世に出ず終わるのならと手慰めにしていったのだ、和歌も陶芸も茶道も学問も居合もそれで極めたのだ。
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