第三十四章 世界が変わらずあることに
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なくなったものだろう。
「アサキ……」
ゆっくりと降りながら、もう一度、声を掛けた。
アサキは、声の方を見上げると寂しげな微笑を浮かべた。
「カズミちゃんだけでも、無事で、よかった」
無事、というわけでもなさそうだけど、生きてはいる。お腹がぐちゃぐちゃで、あと少し強いダメージを受けていたらどうなっていたかは分からないけど。
応急処置なのかまだまだ酷い痛々しい状態だけれども、生きてはいる。そこにしか安堵を見いだせないことは、悲しいことかも知れないけれど。
「すぐに、わたしが治癒魔法を掛けるから。……でも、ごめん、ごめんね、ちょっとだけ待ってて」
アサキは申し訳なさそうにそういうと、足元にどさりごろり転がっているものを見下ろした。先ほどまで明木治奈であったはずの、消し炭のような黒い塊を。
「なんの、ために……」
ぼそりと口を開いたが、だけどすぐに、うっと込み上げてしまう。まぶたの涙を袖で拭うと口を閉じて、胸の中で言葉を続けた。
なんのために生きて、なんのために死んだのか。
いや、分かる。
分かるよ。
治奈ちゃんは、大切なものを守るために戦い。
きっと、わたしに託して笑って消えた。
後悔なんかなく、きっと、笑って。
分かる、けど。
「……悲しいな。……それでも、悲しいな」
再び口を閉ざし沈黙を続けていた赤毛の少女であるが、やがて、あぐっとしゃくり上げると、もう止まらなかった。
涙が。
嘆きの言葉が。
自分を責める言葉が。
慟哭が。
幼子のように左右の拳をぎゅっと握り締めたまま上を向いて、アサキはいつまでも泣き続けた。
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