第三十四章 世界が変わらずあることに
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もあったかのように。
「けえええええい!」
呪縛の魔法陣が破られたこと、至垂も理解したのであろう。なればこそ、この一撃で仕留めようと雄叫び張り上げながらエンチャントに輝く長剣を振り上げた。
そして、赤毛の少女の脳天を叩き潰すべく振り下ろされたが、だがその切っ先は、空を切っただけだった。
突然、突進の勢いがぴたり静止して、そのため剣撃の目測が狂ったのである。
狂わせたのはアサキであった。
床には広く、五芒星魔法陣が輝いている。中心に立つのはアサキだ。至垂の技を打ち破った瞬間、今度は自らが呪縛魔法陣を発現させて、巨蜘蛛の動きを封じたのである。
「さっき、治奈ちゃんを悪くいったこと、謝って」
爆炎に身を包みながら、赤毛を逆立たせながら、アサキが口に出した言葉は、友の尊厳を守るための言葉であった。
通じなかったが。
「誰が謝るかあ! 無能だから無能だといったん……」
至垂が叫びながら、上半身の呪縛を力任せに断ち切った。
そして、長剣の柄を両手に持って、赤毛の少女へと振り下ろした。
至垂の握る長剣が、身の真ん中から折れていた。
アサキが自分の剣を下から振り上げて、叩き砕いたのである。
「うわあああああああああああああ!」
アサキの、地をも揺るがす絶叫が響くのと、巨蜘蛛の胴体が斜めに切り裂かれ真っ二つになるのは同時であった。
血を噴きながら巨体が崩れると、その背から生えている至垂の身体へと返すアサキのひと振りが打ち下ろされた。
「そ、バカなあ……お前などに、我が……野望があ……」
ずるり、至垂の上半身が斜めにずれて、頭のある方の半々身が蜘蛛の背へと落ちた。跳ねて、さらに地へと転げ落ちた。
両断され、崩れている巨蜘蛛。
そこから生える至垂の上半身も、両断されている。
それらがすべてまとめて砂と化して消えた。
残るは、静寂ばかりであった。
どれくらい、時間が過ぎただろうか。
既にアサキを包んでいた白い炎の揺らめきは消えて、彼女はただうなだれて立ち尽くしていた。
ばさりと垂れた赤い前髪から覗くその瞳は、どこにも焦点が合っていない。完全に生気を失った、アサキの表情であった。
アサキのすぐ背後には、白い衣装を着た幼な顔の少女ヴァイスがいる。
もちろん喜んでなどいないが、さりとて悲しんでもいない。内面のことは分からないが、そうとしか見えない普段通りの涼やかな表情だ。
「アサキ!」
青い魔道着、カズミの声だ。
アサキのいる傾斜の底へと、後ろ重心でゆっくりと降りてくる。
ほとんど胴体分断に近い大怪我を負い、魔法で自らを治療していた彼女であるが、ようやく最低限の処置が済んで、いてもたってもいられ
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