第三十四章 世界が変わらずあることに
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ぼとり、焦げた皮膚が落ちる。
割れて、剥がれて、次々と、地へ落ちる。
新たな皮膚が再生しているのだ。
巨蜘蛛の部分は、以前と変わらぬ状態にまで戻っていた。
背から生える人間体の方は、構造が複雑であるためかまだ再生が追い付いていないようで、ぐちゃぐちゃな形状のままだ。
だが、焼けた皮膚そのものはかなり再生が進んでいる。ところどころ、肌色が見えている。
皮膚が再生しようとも、形状としてまだあまりにぐちゃぐちゃであるため、それが至垂なのかシュヴァルツなのかは分からなかったが。
魔道着はさすがに、切れ端すら残らず消し飛んでおり、上半身は完全な裸である。至垂徳柳の、古代彫刻然に筋骨隆々とした、女性の裸体である。
ぐふ
至垂か、シュヴァルツか、また笑い声を漏らすと、巨蜘蛛の足が動き出した。
「お前も死ね!」
突進する。
アサキへと、巨体が突っ込んでいく。
腰を軽く落として身構えるアサキであるが、ぐらり足元をふらつかせてしまう。
嫌な予感に寝ていられず、急ぎここへ駆け付けたものの、疲労はまったく回復していないのだ。
だが、よろけながらもきっと顔を上げると、猛烈な勢いで飛び込んでくる蜘蛛の巨体を両手で受け止めていた。
ずしゃっ、
アサキの靴が地面へ深々めり込んだ。
受けた衝撃の、あまりの重さのために。
「明木治奈のあとを……己の度量も把握出来なかった無能な女の、あとを追うがいい!」
ぐいぐいと、巨体が押す。
重量、勢いを込め、アサキを潰そうと押し込んでいく。
肉体の疲労も魔力も回復していないアサキは、力比べとしては完全に劣勢であった。
毅然とした表情で踏ん張りはするものの、魔道着も着ていないとなればその関係はより明らか。
ずざりずざりと、足元のえぐれがどんどん伸びていくばかりであった。
「う、あ」
踏ん張るアサキの、顔が苦痛に歪む。
骨が軋んでバラバラになりそうな痛みに歪む。
そばに、白い衣装の少女ヴァイスが立っている。
アサキが危険だというのに、心配そうなそぶりはまったく見られなかった。無表情に近い落ち着いた顔で、ただ様子を見守っている。
先ほどは、アサキを守るために一人で巨蜘蛛と戦ったというのに。いまの彼女は、ぴくりとも動かなかった。
何故?
すべて、分かっていたのかも知れない。
彼女、ヴァイスは。
これから起こることを。
「治奈、ちゃんの……ためにも……」
巨蜘蛛の突進を、両手で食い止め踏ん張っているアサキは、必死な、懸命な、くしゃり潰れた表情で口を開いた。
ぶるぶると、足が、膝が震える。
足元の土がえぐれ、アサキの靴がめり込んでいる。
負けられ……ない!
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