第三十四章 世界が変わらずあることに
[15/20]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
なにお客さんは入っていないようだけど、でも、まあまあ入ってはいるのかな。
よかった。
ヘラを持ち、汗だくで鉄板と具材と睨めっこしている父。
妹、史奈もいる。小さな身体でテーブルの間を縫って、お皿を運んだりしている。
フミ、ちっちゃいくせにしっかり働いておるな。
いつか焼きを覚えて、お婿さんでもとるのかな。
ああ、常連客も何人かおる。
ほっとした。
みんながいることに。
世界が変わらずあることに。
うち、守ったよ。
みんなを。
世界を。
これからも、守り続けるよ。
いつまでも。
ほじゃから、安心してね。
笑いながら、
いや、笑えているのかは分からないけど、とにかくそおっと手を伸ばした。
フミ、世界で一番大切な、妹へと。
重ねた皿を持って厨房へ戻ろうとしている史奈の背中へと、伸びる手があとほんの僅かで触れそう、というところで、
明木治奈の意識は、光の風にさらさらと粉になって、吹き飛んでいた。
妹のいる世界を守ったのだという満足の中、魂の粒子は風に溶けて消えた。
7
ぜいはあ、息を切らせている。
激しい疲労感の他に、驚きや悲しみ、怒り、様々な負の色がごっちゃとひしめきあった、やつれた顔で。
そんなどっと寄せる感情を全然処理出来ず、赤毛の少女、令堂和咲は、ただ茫然自失といったふうに立ち尽くしていた。
「アサキさん、そんなに急いで。無茶したらいけないと、いってるでしょう」
背後から、幼くも落ち着いた声。
扉を抜けてこの大きな部屋へと入ってきたのは、ふんわりした白衣装を着たブロンド髪の少女ヴァイスだ。
掛けられた声に気付いているのかいないのか、アサキは正面を向いたまま汗ばんだ拳をぎゅっと強く握り締めた。
まるで体育館、といった高い天井の広大な部屋だ。
一方の壁の下には、青い魔道着姿のカズミが倒れている。
意識はあるようだが、生死に関わるようなかなりの痛手を受けているのが分かる。全身傷だらけどころか、骨という骨が折れていそうな酷い状態だ。
アサキの正面には、床が大きくえぐられて地面が露出している。
直径が三十メートル以上はある、巨大な円状だ。魔法陣を使っての、魔法の痕跡であること、ひと目で明らかだった。
アサキは陥没した淵に立つと、ゆっくり滑るように降りていった。まだ体力がまるで回復しておらず、ふらふらと頼りなく。
傾斜の途中に、焼け焦げてほぼ炭化した物体があった。
反対側の斜面にも、そのすぐそばにも。
僅か残った衣服の切れ端から、おそらくアインス、ツヴァイ、ド
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ