第三十四章 世界が変わらずあることに
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死半生の身で横たわっていた彼女であるが、この状況に、この、不自然な状況に、悲鳴に似た叫び声をあげていた。
「カズミちゃん……」
治奈は、骨のむき出しになった拳をだらり下げて、カズミの方を向いた。
そして、浮かべるは安堵の微笑。
鬼神の勢いとは裏腹に、その顔は優しかった。
カズミの、薄皮一枚繋がっているだけだった胴体がかなり治癒していたからである。
戦いを見ている間に、自分で自分を治療していたのだろう。
それよりも……
と、友の無事に安堵した治奈はシュヴァルツの顔へと視線を戻して睨み付けた。
すると不意に、
ぶるぶるっ、立つ足元である巨蜘蛛の背が激しく震え、治奈はたまらず振るい落とされていた。
「貴様などはいつでも倒せる」
切っ先の折れた長剣で威嚇牽制しながら、巨蜘蛛は全力で走り出したのである。
明らかな捨て台詞であった。
焦りと屈辱の滲み出た負け台詞であった。
だが、治奈には相手に合わせる義理などない。
「ここで逃がすわけにはいかん」
まるで瞬間移動といった素早さで巨蜘蛛の前へと回り込むと、再び胴体へと拳を叩き付けたのである。
「守るために!」
どおん!
蜘蛛の巨体が揺れた。
治奈の剥き出しになった指の骨が何本か、砕けて散った。
「託すために!」
どおん!
さらに手の骨が砕ける。
全身の皮膚が、肉が、ぼろぼろと崩れ、削げ落ちる。
「やめ、ろ、治奈あ! その力、なんかおかしい!」
カズミが叫ぶが治奈は聞かず、さらに一撃を巨蜘蛛の胴体へと打ち込んだ。
治奈の右腕が、なくなっていた。肩から、ぼろりと崩れて地に落ちて砕けていた。
「ほじゃから、託すんじゃ!」
どおん!
「がふ」
シュヴァルツの悲鳴。
代償に、治奈の左拳がなくなっていた。
託すんじゃ!
治奈は心の中でも思いを叫ぶ。
もう、この身体はボロボロだ。でも、降参するしかないと思っていたのに、反撃する力を自分は得た。
どこから沸いてくる力なのか分からないけれど、守るための力を得た。
ならば、戦わなければ嘘じゃろが。
現実世界を消滅させるためにまず仮想世界を滅ぼそうとしている。至垂の肉体を得てそのような力を身に付けたシュヴァルツを、ここで逃しては大変なことになってしまう。ここで、必ず倒さんといけん。
自分の身体はもう、過ぎたる力にボロボロじゃ。
ほじゃけど、ほじゃから託すんじゃ。
アサキちゃん、カズミちゃんへと。
すべては明日のために。
どおん!
治奈の左腕が砕けて吹き飛んでいた。
殴る拳がもうないから腕を振り回して巨蜘蛛の足を一本砕いたのだが、代償に左腕が肩か
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