第三十四章 世界が変わらずあることに
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至垂徳柳の、切断時の驚きや痛みに表情が醜く歪んだ首であった。
黒服の一人、ドライが一歩前へ出ると、巨蜘蛛へと向けて右の手刀を斜めに跳ね上げた。
数メートルの距離があるというのに、至垂の上半身が魔道着ごと、腹から肩に掛けて切り裂かれていた。
至垂の肉体は骨まで断たれて、背中の皮膚の裏側が見えそうなくらいぱっくりと裂けてしまったが、血が噴き出さないどころかただの一滴すらもこぼれなかった。やはり、生命活動は停止しているということなのだろう。
続いてツヴァイが、一歩、二歩、巨蜘蛛へと近付く。
特に大切そうでもなく無造作に、至垂の首を髪の毛掴んで持ちながら。
その首を、ドライが切り裂いた至垂自身の亀裂の中へと押し込むと、ぬるりと頭部すべてが切り裂かれた腹部の中におさまってしまった。
いや……押し込まれる都度、接触面が溶けており、至垂の頭部はどろり溶けて融合というべきか吸収というべきか、小さくなって完全に消えてしまった。
準備は整ったということか、黙って見ていたシュヴァルツが黒くふんわりした自分の衣装に手を掛けた。
手を掛けた瞬間、するりと布地のすべてが足元に落ちた。
両足を抜き、靴も脱ぐと、黒のハーフパンツ以外はなにも身に着けていない格好になった。
人間の基準で考えるならば、まだ幼い、隆起のまるでない、女児の体型である。
ハーフパンツに手を掛けると、なんの躊躇いもなく脱いで全裸になった。
まるでマネキンである。
あらゆる意味で。
胸の膨らみや腰のくびれがまったくない。のみならず、股間にはなにも生えていないのは当然のこと、なんの形状すらもそこにはなかったのだから。
生体型ロボットであり、男性でも女性でもないためだ。
便宜上は彼女と表記するが、彼女、シュヴァルツは全裸の状態のまま巨蜘蛛の傍らに立った。
右腕を上げて手を伸ばすと、手のひらを巨大な胴体へと当てた。
シュヴァルツの右手が薄青く光り輝くと、手の触れている巨蜘蛛の皮膚がじくじくと溶け始めた。
薄青い光、まとわりつく荒い光の粒子が、ゆっくりと動き始める。シュヴァルツの腕を登り、身体へと、全身へと、輝きが流れていく。
至垂の肉体を溶かし取り込もうとしているようにも見えるが、至垂とシュヴァルツお互いの質量にいささかの変化もない。
巨大な蜘蛛はその大きさであり続けたし、シュヴァルツも幼い少女体型のまま。
シュヴァルツは一糸まとわぬ姿で、巨蜘蛛の胴体に手を当て、薄青く輝く光のやりとりを続けている。
なにかを吸い取っている?
それは魔力?
それとも、肉体を?
だが、消えたのはシュヴァルツの方であった。
互いの質量も見た目も変化はなかったというのに、幼い少女の方こそが不意に消えてしまった
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