第三十七話 夏の食べものその五
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「色々言ってたけれど」
「それでも実はね」
「あれこれ言っても」
他人のことをだ。
「何だかんだで見捨てないでね」
「優しいらしいわね」
「いい人だったんだよ」
「そうみたいね」
「凄くね、困っている人を見捨てないで」
「再生させて」
「また活躍させる」
野村再生工場と呼ばれていた、他チームを去ることになった選手を迎え入れて再起させてきたことでも有名だった。
「そうもしてきたから」
「やっぱりいい人ね」
「苦労人だったからね」
「野球選手になるまで貧乏で」
「しかも入団してすぐに辞めさせられそうになったし」
「そこから必死に努力してよね」
「南海の四番キャッチャーになってね」
そして長い間チームの絶対の柱であった。
「監督にもなったから」
「物凄く苦労した人よね」
「間違ってもエリートじゃないから」
「叩き上げよね」
「大学野球で活躍して鳴りもの入りの人じゃなかったから」
法政大学のスターだった鶴岡ともバッテリーを組んだ立教大学のエース杉浦忠ともだ。ひいてはライバルと言われた長嶋茂雄とも。
「高校を出て無名で入って」
「辞めさせられそうにもなって」
「そこから出て来た人だから」
「本当に苦労人ね」
「だから色々人間のことをわかっているから」
「実は凄く優しかったのね」
「新庄さんにも色々言ったけれど」
口ではだ。
「ずっと温かく見ていて引退の時もね」
「そうだったのね」
「辞めると寂しくなるだったから」
それまで何かと言っていたがだ。
「その実はね」
「凄くいい人だったのね」
「そうなんだ、だから俺あの人好きなんだ」
「ヒロ君もなのね」
「それって」
「私も好きよ、野村さん」
一華は達川ににこりと笑って答えた。
「あのお喋りが結構ツボだったの」
「それで好きだったんだ」
「嫌味言ってるみたいでね」
一見毒舌だがというのだ。
「何処か温かい感じがしたから」
「それが野村さんだったよね」
「目が温かかったし」
「そうだったんだよね、冷たい感じしなかったんだよね」
「全くね」
「人間味があってね」
「凄くね」
達川に笑顔で応えた。
「だからね」
「好きだったんだ」
「私もね、あと私も仇名とかで呼んでいいから」
一華はこうも言った。
「そうしてね」
「じゃあイッちゃんでいいかな」
「それじゃあね」
「そう呼ぶね、これからは」
「それじゃあね」
「そうするよ、それで野村さんってね」
この人のことをあらためて話した。
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