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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 前編
瞳の奥に潜む影
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、分かるか?」

 マサキがトウマに問いかけると、トウマは何かに迷っているかのように表情を曇らせ、今まで鳴りを潜めていた発作が突然現れたかのように、瞳の奥が大きく揺らいだ。唇は何かに怯えるように震え、言葉を紡ごうと筋肉を動かすものの、のどが声を出すのを拒んでいる。
 トウマはそのまま数秒間ほど葛藤していたが、マサキが「知らないならいい」と告げると、「ごめん」と掠れた声で一言だけ言った。

「……しかし、何があったのか分からないんじゃあ、この先同じことがあったときに何かと不安だな……」

 マサキが思案げに言うと、再びトウマが表情を崩すが、マサキは見て見ぬ振りをする。ここまで他人に気を使える自分に少しの違和感を抱えながら。

 その時だった。一人のプレイヤーが突如として二人の背後に現れたのは。


 背後から近付く人影に真っ先に反応したのは、トウマだった。はっと振り返り、背中の剣に手を掛ける。
 マサキもそれに追随して柳葉刀の柄を握ると、視線の先の人物は両手を挙げて自分が敵でないことをこちらに示し、特徴的な語尾で二人に話しかけた。

「おっト。オイラはモンスターじゃないし、敵対するつもりもなイ。武器から手を離してくれないカ?」

 やけに甲高い声で話したプレイヤーの言葉をとりあえずは信じることにして、柳葉刀の柄から手を離し、もう一度彼女を見据える。
 防具はマサキたちとあまり変わらない簡素な皮装備で、腰に鈍い金属光沢を放つ鉤爪と投擲用のピックが下げられている。このことから見ても、少なくとも彼女が敵意を持っているのではないと判断し、マサキは彼女に対する警戒レベルを一段階引き下げたが、顔に刻まれた意味不明な三本線のペイントを見て、再び一段階引き上げる。横目でちらりとトウマを見ると、こちらはすっかりと安心しきった様子だ。さすがに、初対面の相手に対してそこまで隙を見せるのはいかがなものかとマサキは思ったが、今はそれよりも目の前に現れた女性プレイヤーの情報の方が先だろうと考え、言葉を発しようとする。  が、それよりも数コンマ先に飛び出した彼女の言葉が、マサキの言葉を遮った。

「オイラはアルゴ。情報屋をやってるモンダ。……さっきから見させてもらったが、あんたたち初心者(ニュービー)ダロ? それでよく《ナイトウルフ》の連携攻撃を捌けるナ。なかなか見どころあるじゃないカ」

 そう言って、アルゴと名乗ったプレイヤーはにっと笑って見せる。マサキは表情を崩さないまま、「どうも」と一言だけ言うと、次の言葉を発した。

「それで、その情報屋が、俺たちに何の用だ?」

 マサキの言葉にアルゴはもう一度不敵な笑みを見せると、

「その情報は300コルだナ」

 と言ってのけた。だが、マサキも現実世界では一流のホワイトハッカーと
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