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冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
雷鳴止まず その3
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振り返る。
「すべては参謀総長である、この俺の慢心と時勢の読み違えが原因よ……」


「東欧から引けば、ミンスクハイヴ攻略を手伝った米国への筋も通る。これ以上の折り合いはあるまい」
「ま、真ですか……」

参謀総長は天を仰ぎながら、告げた。
「正直に言えば、未練はある。
だが、BETA戦争で混乱の最中にあるソ連の現状……それを許すまい!」

 ソ連は5年に及ぶBETA戦争で、恐ろしいほど疲弊した。
戦火に(たお)れた9000万人近い人口は、1970年の国勢調査で2億人を数えた人口の3割以上……
4年に及ぶ大祖国戦争で失われた2700万人以上の悲劇で、成年労働人口の大部分を喪った。
 成人男性ばかりでなく、共産党青年団(コムソモール)や婦人志願兵、果ては囚人懲罰大隊(シュトラフバト)まで動員した。
彼等は、BETAの前に肉弾突撃し、『大砲(プシェチノ)(ミヤサ)』へ、なり果てた。
その結果、僻地に残る人口の殆どは老人と未就学児ばかりという惨憺たる状況に陥った。

 シベリアでは首都機能移転をしたとは言え、ハバロフスクやウラジオストックの人口は、嘗ての欧露の地にあったペテルブルグやモスクワより少なかった。
 ドイツ人捕虜やポーランド人捕虜を酷使してシベリアの天然資源を開発した30年前のような事は望めない。
 NKVD(KGBの前身組織)長官のラヴァレンツィ・ベリヤがソ連経済に強制収容所のシステムを組み込んで実現するかに見えた第二のシベリヤ鉄道横断計画、バム鉄道(バイカル湖・アムール川の区間の鉄道)の建設も終ぞ叶わなかった。

 参謀総長は一頻り思案に耽りながら、荒れる日本海を臨む。
右の食指と中指にハバナ製の葉巻を持ち、冷たい雨が吹き込むベランダに立ち尽くしていた。
「10年、いや20年国力を蓄えた後、忌々しい東の小島に巣食う黄色猿(マカーキ)共を、我が手で支配してくれようぞ……」
共産国・キューバより貢納された高級葉巻「パルタガス」を、7月の()せ返る様な湿度の中でゆっくりと吹かす。
「木原マサキよ……、ソビエトを、この私を踏み台にして世界に飛び出したツケは、何れキッチリと払ってもらう」
マサキへの怨嗟の念を吐いた男は、深い怒りに身を震わせた。






 マサキは、自室に帰って来て一風呂を浴びた後、寝台の上で横になる。
(うつぶ)せになりながら、脇に立つ美久からマッサージを受けていた。
左肩の傷は、次元連結システムの応用で常人の数倍の速さで回復するも、些か全身の倦怠感が残ったためであった。
上下黒色のポリプロピレン製の下着姿になり、全身の筋肉を揉み解されながら、声を上げた。
「美久、俺は欧州旅行が終わったら、CIAの誘いに乗って、米国に乗り込むぞ」
驚いた美久は、手を
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