第二章
[8]前話
「五つは守護殿に差し出し」
「後の六つは」
「永福寺にな」
薬師如来のお告げに従い良化が言って種を貰ったこの寺にというのだ。
「献上しよう」
「この度のお礼に」
「そうしよう」
「そうですね、よいお考えかと」
良化は師の考えに賛同して述べた。
「それでは干して」
「差し上げよう」
「そうしましょう」
こうしてだった。
十一個の干し柿が作られ五つが守護に献上され六つが永福寺にそうされた。そして永福寺に干し柿が届いた時にだった。
「何っ、公方様がか」
「はい、疱瘡を患われてです」
良化は良信に話した。
「そしてです」
「そのうえでか」
「永福寺の方々が病にいいと思われて」
「こちらが献上した干し柿をか」
「公方様に食べて頂くと」
そうすればというのだ。
「これがです」
「無事にか」
「治ったとのことです」
「そうなのか、ではだ」
良信はその話を聞いて僧衣の袖の中で腕を組んで話した。
「如来のお告げは」
「この為だったのでしょうか」
「そうかもな、御仏のお考えはな」
「人にとってはあまりにも遠い先まで見られたもので」
「それでだ」
その為にというのだ。
「まことにすぐにはな」
「わからぬものですか」
「そうであるな、しかしこれでな」
良信はさらに話した。
「公方様がこの寺に領地を下さった」
「はい、かなりのものを」
「そのことはまことに有り難い、だから公方様にな」
良信はさらに話した。
「これから毎年この寺の柿をな」
「献上しますか」
「そうするか」
「そうですか、しかしこの度は」
良化は深く考える顔になって述べた。
「御仏のお考えの遥か先まで見渡されていることに」
「驚いたな」
「それが御仏なのですな」
「そうだな、ではこれからもな」
「はい、御仏の教えを学んでいきましょう」
「そして世に広めていこう」
こう言うのだった、そしてだった。
良信はこのことを書き残させた。
「御仏のことを世に伝える為にな」
「その為にですか」
「このことはだ」
「書き残しますか」
「その様にしよう」
こう言ってだった。
良信は良化にこの話を書き残された、こうしてこの話は今に伝わり柿は江戸時代の終わり頃までこの寺にあったという。これもまた仏の話である。
薬師如来の柿 完
2022・5・12
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